瞑想生活7「この数年で一番安い話(i)」

瞑想というのは、ずっと自分の感覚に意識を集中させているので、
からだの感じ方が普段より敏感になり、
それが情緒にも影響を与える。
瞑想中、目を閉じていると、
部屋の中に流れる録音テープの声は、「感覚に集中しろ。感覚だ」と言うのだが、
なかなか、毎回毎回、感覚に集中することはできない。
仕事のことを考え、過去の思い出を思い返し、
ありもしない夢想を繰り広げ、「明日のおかずは何だろなぁ」と期待し、
いろんな題で一人大喜利を始める。

まるで木々を飛び回る猿のように(講話で教えてもらった比喩)、
頭の中には、次から次に、邪念が浮かんでくる。

ただ、そうやって頭の中を猿が飛び回りながらも、
毎日12時間くらい(形だけでも)瞑想していると、
からだの感じ方に変化が起こっているようで、
ある時、なんでもない記憶を思い返していたら、
急に悲しくなって、涙がボロボロボロボロこぼれてきた。
なにがそんなに悲しいのかもわからなかったが涙が止まらず、
あぁ、情緒が揺れているのだな、
なんだか、瞑想している影響がでてきたなと感じた。

そのほかにも、情緒の変化を感じることが初日からあった。
毎日、夜に「講話」の時間があり、女性の声が録音された「仏教講話」を皆で聞くのだが、
どうにも、その女性の話し方が気に触って仕方ない。
別に大したことないことはずなのに、
単語のアクセントがずれていたり、
説話に出てくる登場人物の方言が間違っていたり、
演劇調の会話のトーンが気に食わなかったりと、
とにかくすべてが気に障る。

すると、ついに4日目の夜に講話を聞いていると、
頭の中がぐるぐる回りだし、その場にうずくまってしまった。
き、気持ち悪・・・。
その間も、講話は続いており、内容は当然頭に入ってこないが、

文章の端々は耳に入ってきて、講話に対する嫌悪・反発だけは続いている。
(女性)「みなさんは普段の生活でイライラしてしまうことありますよね?
 どうしても抑えられない時、ありますよね?多々、ありますよね?」
うるさい。何度も確認すんな。
気に障る。

(女性)「人はいつも迷うものです。あー、ミルクが飲みたいなぁ。
 いや、やっぱり果物ジュースが飲みたいぞ。
いや、やっぱりお酒だな。でも、ミルクも飲みたいなぁ。

 そのように迷ってばかりなのです」
なんだ、その例は。意見変わりすぎやろ。情緒不安定か。止めてくれ。
あぁ・・・うぅ・・・、あたまが、痛い。

女性の声が直接、耳に突き刺さるような痛みを感じ、
僕は、両耳を押さえた。

そうして、テープの中の女性が、
いかに人間が無知であり、
いかにブッダが大変な修行を積んできたかと講話を進めていく中、
僕は、一人ヨロヨロと部屋を出て、自分の部屋のベッドに潜り込んだ。
遠くで聞こえる女性の声にどうしようもない嫌悪感を感じながら、
これはなにかの罰なんじゃないかという思いが、頭の中をぐるぐるまわっていた。