タフマン

世界一の富豪、イーロン・マスクがTwitter社を買った。
報道によると、ツイッターから追放されたトランプ元大統領を呼び戻すことを計画しているらしい。
ウクライナ侵攻の際には、プーチン大統領にタイマンを呼びかけ、電気自動車を作りながら、火星移住計画を進めつつ、ツイッターを買収。
さすが、『アイアンマン』のモデルになっただけはある。
だれよりもタフな男。
ヤクルトもタフマンのCMに起用してみてはどうだろうか。
(ヤクルト社を買うお金を持ってるとしてもだよ)

イーロン・マスクに匹敵するタフマンは世界にもなかなかいないが、タフな人と聞いて思い出す話がある。
詩人の大岡信が書いた、芸術家の菅井汲についてのエッセイである。

芸術家の菅井は、毎日同じ生活リズムを保つタイプのアーティストだったのだが、唯一の快楽がポルシェをかっ飛ばすことだった。
カーマニアとしてスピードに興じた菅井だったが、マニアという言葉から想像するような、車種への比較、羨望、憧れはもっていなかった。
ある夏、菅井はいつものようにポルシェを飛ばしていると、一瞬の判断の遅れから、大事故をおこしてしまい、気づいた時には、病院のベッドで動けなくなっていた。
画家人生が終わるかもしれないと危惧された大事故だったが、驚異的な意志力で回復し、半年後には大作に取り掛かかり始めていたという。
しかも、事故の影響で、アシスタントの手を借りなければ制作が進まなくなったのだが、それが結果として彼の新しい作風につながった。
転んでもただではおきない。
これぞ、タフマンである。
しかも、タフマンである彼は、事故後、まだろくに歩けない時点で、大破させたポルシェよりも性能のいい、新しいポルシェを買ったのだ。
なんとタフマン。
あんたがたタフマン。

まだ病気から回復していない菅井は、
「ここでやめたら負けやと思うたから、前のよりももっと速いやつを買うたんです」
と言っていたらしいが、これが芸術家だなと思う。
そう聞くと、ラッパーのGADOROがリリックの中で、「曙じゃねぇが、倒れる時は前のめりだ」と書いていたのを思い出す。
タフマン達は倒れるときも前に倒れるし、転んでも、ただでは起きないのだ。

世の中では、性的マイノリティや、発達障害や、シングルマザーなどの「社会的マイノリティ」に対する理解が広がり、逆に、ハラスメントや体罰やブラック企業のような理不尽な権威には鉄槌が下るように見えるが、実際は、以前よりも世間は「荒野」になり、救いの手は弱者に差し伸べてもらえなくなっている。
世の中が世知辛いのは常だが、世知辛さに耐えうるタフさがこれからの世には必要とされている。
言葉や相手は選ぶが、子どもには、基本、タフになってほしい。
イーロン・マスクを見習えとは言わないが、曙の倒れ方くらいは、見習わせたい。

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