指令

子どもの育て方はいろいろあって、
どれが正しい育て方とは言えないけれど、
見ていてあまりいい気分にならない親子というのがいる反面、
見ていて清々しい気分になる親子というのもいる。

知り合いのRさん家には、7歳の女の子がいる。
下には、もうひとり、3歳の女の子もいるが、
今回は7歳の女の子、Mちゃんと両親の話。
Rさん夫婦は、世界中の夫婦が感じるのと同じように、
自分たちの娘を何度も、天才だと思った。
特に、発想力が素晴らしいと。
うちの子が天才なのは疑いがないように思えるが、
もし、仮に、うちの子がよその子と同じ普通の子なら、
それはそれで、子どもとは素晴らしいもんだと、
常日頃から、妻のA子さんは、思っていた。

ある時、本屋にいたA子さんは、
「100の指令」というタイトルの本を見つける。
現代アーティスト・日比野克彦さんが書いたもので、
100個の指令が載っているだけの、簡潔な本。
その本が気に入ったM子さんは、家に買って帰り、
旦那と娘に、その100の指令を順番にひとつずつさせることに決めた。
そして、二人の感想を本の隅に書いて残すことに。
天才期の娘の、”発想の記録”として。

100の指令には、簡単なものから、やるには時間がかかりそうなものまである。
「口の中をベロで触って、どんな形があるか探ってみよう。」
「鉄棒を毛糸でまいて、暖かい鉄棒にしよう。」

A子さんは、指令の左下にMちゃんの感想を、右下に旦那の感想を書いた。
「目を閉じて まぶたの裏を見てみよう。」
娘:土星、と、木星が回ってる!
夫:なにもない。無。絶望的。

「家の窓から見える、窓の数を数えよう。」
娘:23個! Fさん家が、いちばん大きい
夫:8個。 ・・・数え方?

「色の名前を考えよう。」
娘:酢の物色。 昨日、学校の裏にいた虫の色
夫:ツイッターブルー 

「今日の気持ちを食べ物にたとえてみよう。」
娘:モチ
夫:白子

「昨日の気持ちを食べ物にたとえてみよう。」
娘:モチ(きな粉のやつ)
夫:鰻

指令の左右に書かれた娘と夫の感想の下には、
「それ昨日の気持ちじゃなくて、昨日食べたやつじゃん」など、
M子さんの感想が、書かれているページもある。
この感想から、Mちゃんの発想が天才的かどうかはわからないし、
どちらかというと、旦那の発想に興味を持っちゃいそうだけど、
三人の、ある時期を収めたこの本が、
将来、家族の宝ものになることだけは確かだろう。
本は、時に、こうやって、人の、幸せな関係さえも閉じ込める。
是非、下の娘が大きくなった時も、やってあげてね。

 

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