【第1回】ちゃんとご飯つくってる人が書いた文章だから

現役の高校生と以前高校生だった人に送る、素敵な本の紹介。
表題本以外の話にふらふら寄り道、
道草食いながら、あれこれお話します。


第一回は、向田邦子『父の詫び状』です。
なぜこの本からスタートするのかというと、今、引越ししたてで、手元にこの本しか残っていないからです。でも、手元にあるということは、大切な本だということです。僕は、”2年以上同じとろこに住めない病”なので、引っ越しばかり繰り返していて、引っ越しする必要がないのに、2年たったからといって、600メートル離れた場所にわざわざ引っ越したりするのです。病気なんです。

この度重なる引っ越しを乗り越えてきた本、向田邦子さんの『父の詫び状』を、第一回目の本として紹介したいと思います。著者の向田邦子さんは、ドラマや映画のシナリオを書く脚本家として多くの作品を書いた人で、直木賞作家を取った作家でもあります。直木賞って、わかりますか?ピースの又吉さんが『火花』で取ったのが芥川賞で、まだ取ってないのが直木賞です。

どちらの賞を取っても、なんと副賞として、懐中時計がもらえます。向田さんも懐中時計をプレゼントされたはずですが、大切にしたかどうかは定かではありません。

なんせ、向田さんはおしゃれさんとしても有名だったので、気に入らない時計は机の奥にしまっておいた可能性があります。脚本家で小説家でおしゃれさんの向田さんは、エッセイの名手としても有名でした。今回の本、『父の詫び状』もエッセイという形で本の中には24遍の話が入っていますが、1遍のエッセイを読んだだけで、彼女がエッセイの名人だということがよくわかります。

 

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でももしかしたら今のティーンはこれを読んで、「ちょっと文が堅いな」と思うかもしれません。もし堅いなと思ったら、そっと閉じて、数年後あなたが毎日晩ごはんを自炊するようになった頃に、もう一度開き直してみてください。多分、その時には、文章の堅さが気にならなくなっていると思います。

なぜなら『父の詫び状』は、ちゃんとご飯を作っている人が書いた文章だからです。お正月におせちをちゃんと家で作ったり、かつお節をパックじゃなく、自分でひくような人が書いた文章だからです。”生活する人”が書いた文章には、”生活”の息遣いがあります。

向田さんの本を読んだ後は、寝ながらテレビをみたり、親指についたスナック菓子のカスを舐めながら携帯をイジるような、自堕落な生活を送っている自分を戒めようという気分になります。多くの女性が向田さんのエッセイを好む理由もそういうところにあるので、高校生のあなたも、親に頼らず自分で”生活”するようになったら、この文章の息遣いがわかるようになるかもしれません。

エッセイとはどんなジャンルかわかりますか。エッセイというのは日々あったことや考えたことをつらつらと書く形式の文章です。詩や俳句のような定形があるわけでなく、小説や童話のような物語を書くわけでもない、ただつらつらと書き記した文章をいいます。

 

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じゃあ、高校生のあなたが、SNSやブログに書いた文章もエッセイでしょうか。ちょっと長めに書いた日記や自分の考えを展開してみた文章はエッセイでしょうか。多分、エッセイ風なものもあるだろうし、正真正銘エッセイと呼べるものも、中にはあるかもしれません。

現代は、歴史上で、かつてないほどに多くの人々が文章を書いている時代です。携帯電話でパソコンで、今までで一番、みんなが「書く」ようになりました。では、ウェブ上に書かれたエッセイ風の文章と、日々の生活が書かかれた向田邦子のエッセイは、何が同じで、何が違うのでしょうか。

それは、読めばすぐにわかります。読めば、この本を書いた人が、どういう風に人を見て、どういう姿勢で生活を送っているかがわかるはずです。文章から書き手の匂いを感じれることを知るだけでも、この本を手に取る価値はあるというものです。でも、もし、それらのことが全然わからなかったら、そっと本を閉じて、数年後、自分でアイロンがけするようになった頃に、もう一度開き直してください。その時には、きっと随分、向田邦子さんの文章が味わえるようになっているはずです。なんせ、向田さんの文章は、ちゃんと”生活”している人に、語りかけてきますゆえ。

 

–2016/06/20−
<次につづきます。>

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