エメラルド・シティの問題

アメリカのシアトルはここのところずっと、ホームレス問題に揺れている。
治安の良さと大自然に囲まれた街はエメラルド・シティと呼ばれ、
アマゾンやスターバックス、ボーイングの本社があることで、
比較的裕福な街として知られていた。
これまで、ずっと住みやすい街として人気があった街が、
このところのホームレス問題で、
治安が脅かされ、街全体に大きな影を落としている。

ホームレスの数が増えすぎてしまった街では、
一般的に人々がイメージするホームレスが増える一方で、
家がないながらも仕事にでかけたり、
シャワーを公園で浴びながらも学校へ通ったりしている、
一見、ホームレスには見えない人々が、実質、ホームレスとして、
狭いトレーラーの中で生活しているケースが増えている。
彼らは路上のホームレスとは違い、道路脇にトレーラーカーを並べ、
その中で、身を寄せ合うように家族で生活している。
ホームレスというより車上生活者のようなもので、
日本のネットカフェ難民に近い存在かもしれない。

ホームレスが急激に増えてしまった原因の一つとして言われているのが、
シアトルにあるアマゾン本社が雇用を急速に進めたことで、
他州から人材が集まり、
シアトル内の住宅価格が高騰したために、
中低所得者が家を借りれなくなったことだと言われている。
普通の人々(中所得者)が家を借りづらくなるほど、
アマゾンはシアトル市内で影響力を持っており、
アマゾンはこの20年、シアトルだけで10万件の雇用を生み、
市内・中心街の19%がアマゾンのオフィスだと言われている。
グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルは「GAFA」と呼ばれ、
世界の4大巨大企業とされているが、
GAFAは、一つのまちを容易に変えうる力を持ち始めている。

デフレの続く日本ではなかなか実感できないが、
他国では、物価があがり、それとともに賃金もあがっている。
しかし、賃金があがっている職種に就いている人々は限定的で、
賃金があがらない人々との生活格差は、どんどん広がっている。
特に、社会保障の手薄なアメリカでは、
格差の広がりは想像を超えていて、
ホームレスの増加率でシアトルを押さえて全米一位のカリフォルニア州では、
ダウンタウンのいたる所に、人が転がっていて、
もやは人が路上で寝ているのか死んでいるのかわからない。
それが、ボリビアやガテマラのスラム街ではなく、
GDP世界第一位の中心都市というところに、
産業革命が始まったイギリスと同じ光と影が見えるようで、
経済成長とはなんなんだろうと思う。

シアトルのホームレス問題の原因は市の政策にもあるようで、
2005年にホームレスゼロを目指して行ったキャンペーンは見事失敗し、
ゼロどころが、この15年で180%近くも増やしてしまった。
アマゾンを初めとする大企業から税金を取っているにもかかわらず、
そのお金を有効に使えない市に、
家を失った人たちは苛立ち、ダウンタウンでデモを敢行している。

ホームレスと一口に言っても、様々なホームレスのあり方があり、
自らホームレスになった人も、
仕方なくホームレスにならざるをえなかった人もおり、
十把一絡げにできない部分があるが、
ここ15年でシアトルに増えたホームレスたちのほとんどは、
望まないのにホームレスになった人たちだろうし、
ホームレスにならなくてよかった人達だろう。
ホームレス対策にかけるお金は、アマゾンから引き出せばいいわけだから、
シアトルの惨状は、人災に見える。
政治にできることは人が思うよりも少ないが、
この問題は数少ない、政治がどうにかできる問題だと思う。