コント化する世界

アメリカのトランプ大統領がツイッターで
北朝鮮の金正恩総書記にメッセージを送ったことで、
米朝首脳会談が実現し、板門店で握手していた。
「今から会おうか」とDMで送って、
「じゃ、板門店で」と返信が来るなんて、
なんだかコントみたいだ。

トランプ大統領が誕生してからひしひしと感じるが、
世の中は、なんだか「コント化」している。
嘘のような話が現実のものとなり、
冗談のような話がまともに議論されるようになった。
トランプ大統領は、
「メキシコ人にはレイプ魔か売人か犯罪者しかいない」
「アジア人の英語は下手すぎて何を言ってるかわからない」などと、
従来の大統領では考えられないような発言をしているが、
なぜか、アメリカ人は彼に大統領の席を用意した。
これまで、言葉に責任を持たない人が国家の代表になることはなかったが、
彼の多くの失言がどれも取るに足らない発言に思えるくらい、
今は言葉の軽い時代になってしまった。
アメリカ人は言葉の価値を落としてまで、
劇的な社会の変化を求めたのだろうか。
それともブッシュ大統領が、事実とは異なるのに、
「イラクには大量破壊兵器がある」と言った時点で、
政治家に言葉の重みなど、国民は期待しなくなっているのだろうか。

また、ウクライナでは、TVドラマで大統領を演じていたコメディー俳優が、
5月に、国民の圧倒的支持を受けて、本当に、ウクライナの大統領に当選した。
ドラマで恋人役を演じた俳優たちが
現実世界でも恋人になるくらいの話ならありえるかもしれないが、
芝居の中で演じた大統領に現実世界でもなるなんて話は聞いたことがない。
しかし、そんな、ドラマやコントでしかありえない話がありえる時代になっている。

いや、しかし、シュワルツェネッガーが州知事になった時も
レーガンが大統領になった時も、
「俳優が政治をするなんてありえない」と思われたかもしれないし、
横山ノックや青島幸男が知事になった時も、
「芸人やタレントが政治なんて!」と思われたかもしれない。
そうであれば、
およそ政治家に見えない人が政治をすることがコントみたいなわけではなくて、
他に要因があるのかもしれない。
んー、やっぱり、ツイッターかな。
デジタル技術の進化によって、
これまで現実には起こりえないと思っていたことが現実になったことが
世の中をコントに見せているのかもしれない。

トランプ大統領と金正恩総書記が会談した際、
従来は、官僚たちによって綿密に何ヶ月も前から計画された上で行われるはずの首脳会談が、
一般人が日常的に使っている(しかもよりプライベートで使用される)ツイッターを用いて、
瞬時に実現してしまったことで、フィクション感は増した。
(本当は官僚が綿密にきちんと計画してたらしいけど・・・。)
しかも、それによって、アメリカと北朝鮮という、
価値観から文化までまったく違う国のトップたちが会合するというのが、
またコントというか漫画のよう。
トランプ大統領と金正恩総書記が二人並んだ姿は、
違う漫画のキャラクターが同じコマに入ってしまった時の変な違和感がある。

ツイッターによって、アメリカと北朝鮮という異なる世界観が同じ画面に収まったように、
デジタル技術は、異なる世界観の人々をつないでいく。
世界的な有名人と一ファンがSNS上で交流したり、
億万長者が一般人と論争したり。
デジタル技術によってこれまで出会うはずでなかった人たちが出会うことで、
理解が深まったり、疑念が深まったりするのだろうが、
あまりにも違う世界観を持つ人達が出会うと、
そこには交差すら生まれない。

そのことが明らかになったのは、
以前、IS(イスラム国)が日本人を拉致し、砂漠で惨殺した時だった。
彼らはSNSを通じて、世界中にその残虐な殺害現場を発信したのだが、
それを見た日本のネット民たちは、惨殺された日本人の頭を
ポケモンのピカチュウやドラゴンボールの悟空の頭に取替た上で、ISに送りつけた。
そのふざけた行為に、ISは怒りを顕にしたが、
日本人はその後もふざけることを止めなかった。
自分たちの理想を実現するためなら殺人も厭わないテロリストたちと、
冷房の効いた部屋でふざけ半分にコラージュを作っている日本人。
あまりにも違う環境で違う世界観を有する二者は、
SNS上でメッセージを送りつけ合いながらも、最後まで噛み合うことがなかった。

SNSによって違う世界に住む人達がつながったことで、
世界はコントの様相を呈すようになった。
それはSNSというプラットフォームを通じて、
世界がワンワールドに収まっていくということ。
東西ドイツの統一が、ラジオ放送によってもたらされたように、
情報の交流は、閉鎖世界の終わりの始まりを意味する。
ツイッターは、トランプ大統領と金正恩総書記をつなぎ、
ISと日本のネット民をつないだ。
そこまではツイッターの仕事で、コント化した世界のお膳立てだが、
そこから先、本当にコントで終わるか、現実的な進展があるかは、当事者次第。
ツイッターを使って「電撃会談」と見せかけて、
本当は、周囲のスタッフによる綿密な事前計画があったという、
デジタル技術に頼らない、多くの人の奮闘という事実の方に期待したい。