新大統領

アメリカ大統領は、どうやら民主党の勝利で決まったようだ。
トランプ大統領は最後まで「敗北宣言」を出さないという報道もあるが、共和党には、今回の選挙で当選した議員がたくさんいるので、「我々はまだ負けてはいない」と、最後まで頑張りたい人は共和党の中でも、それほど多くないと聞く。

トランプ大統領を中心に繰り広げられた共和党と民主党の戦いは、「本音」と「建前」の戦いでもあった。
それは、前回も今回の選挙戦も同様だった。

トランプ大統領があの持ち前のパフォーマンスで、歯に衣着せぬ「本音」を言えば言うほど、民主党側の主張は、相対的に、「建前」にズレる。
民主党は、4年前も、今回も、権利や自由について「理想」を叫んだのだが、その理想が力を持たなかったために、4年前は、傍若無人な”新人”に負け、今回は、”現職”の「行き過ぎた本音」に助けられて、かろうじて勝った。

今回はなんとか勝つことができた民主党だったが、アメリカ国民の約半分は、それでも、まだ「建前」より「本音」の方がましだと考えたし、民主党内部でも、インテリである党陣営の「理想」と、支持者の「理想」との間に乖離があったため、ギリギリの勝利になった。

アメリカは「本音」と「建前」で分断され、その「建前」を支持する人たちの中でも、「エスタブリッシュメント(体制側)の建前」と「民衆の建前」の二つに分断されたのだ。
今、アメリカ(The United States)を一つにする(Unite)するのは、かなり難しいことらしい。

トランプ大統領はこれまで、「本音」を表に出すことで支持を取り付けてきた人だ。
しかし、「本音」を言って票を集めてきたのは、トランプだけに限らない。
イギリスのボリス・ジョンソン首相は「EUなんて早く抜けたい」と主張してきたし、ロシアのプーチン大統領も、武力や強権をちらつかせつつ「ロシア第一」を貫き、安倍元首相も、「中・韓には強気で行く」とポーズを取ることで、人々の「本音」に訴えて支持を獲得してきた。

今は「本音」がウケるのだ。
それは、みんなに余裕がなくなったからで、余裕がなくなり、寛容さを示せなくなった人々は、リアルな「本音」を前にすると「理想」を引っ込める。
「同じヨーロッパなのだから助け合おう」という精神から、「ギリシャの怠け者のために我々イギリスの金を使うだなんて!」にシフトする。

その流れは世界的な兆候なので、もし、「本音」の塊であるトランプ大統領が潔くその職を退いたとしても、アメリカとしては、「本音」を口にし続けざるをえないと予想される。
それほど、「理想」や「建前」だけで国内をまとめあげることは難しくなっている。
(それに、バイデン新大統領は、民主党の代表候補者であったサンダースに比べて、まったく「理想」を語らない人として代表に選ばれたわけだし)

「本音」が幅を利かせる時代、「外交」的には、国同士の衝突がこれまでよりも起きることが予想される。
どの国も、有権者に対して、自国の「本音」を押し出している強気な様を見せなければいけない。
そうしないと、国民の溜飲は下がらず、矛先は政府へ向かう。

また、「内政(国内)」においても、衝突は増える。
「現実」が厳しいばかりに「本音」を押し出さざるをえない人が多くなる社会では、個人間の衝突が増えることが予想される。
ただ、人々は、日々の生活の中で、そんな頻繁に衝突を起こしてもストレスが増えるだけなので、衝突よりも無関心を選ぶ。
他人は他人。
人それぞれ。
その考えは、いい方に働けば、社会の「多様性」につながることもあるだろうが、
悪い方に働けば、「自己責任」からの「切り捨て」につながる。

ただ、日本はアメリカのように「理想」から国家が始まった国ではない。
「理想」が「本音」に負けたとしても、アメリカほど、どうということもないのかもしれない。
これまで「理想」が常に「現実」の前に敗北してきたのが、「世間の国・日本」である。

しかしどの国の国民であっても、「本音」を押し出す社会は、人々を消耗させる。
「俺の指示通りに動いていればいいんだ」
「私のお金で何を買おうと勝手でしょ」
そういう類の「本音」の押し通しは、一時の溜飲は下げてくれるが、長期的には、こころを満たしてはくれない。
「本音」はある程度「理想」で薄めないと飲み続けられない。
その「理想」は、アメリカでは政治に結びつきやすいし、日本では、政治には結びつきにくい。

ただ、どちらにしても、「理想」や「建前」がないと社会は回らない。
今回、かろうじて「建前」を重んじる”新人”が「本音」を顕にする”現職”に勝ったが、
そのことが、「本音」の暴走に歯止めをかけてくれるきっかけなのか、「建前」の無力さを示すきっかけになるのかは、後の時代になってみないとわからない。