男性が不要になっていく社会①

解剖学者の養老孟司先生は、都市化が進むと、
女性や子どもが割を食う社会になるとよく本に書かれていた。
都市化とは人間が生活環境を、
コントロールできるもの・意識できるもので埋め尽くすことであり、
人間がコントロールすることのできない「肉体」から多くの影響を受ける女性や子どもは、
都市化社会では隅に追いやられるという。
物事を計画的・理性的に進めたい都市化社会の人間からすると、
急に体調が悪くなったり、妊娠で長期間休んだりする女性や、
頻繁に病気にかかったり、感情のまま行動したりする子どもは扱いずらい。
肉体や生理に影響を受ける彼女らのような存在を、彼らは、不確定要素として嫌う。
そうして、女性は徐々に、その生理機能を制限する方向に向かって子どもを産まなくなり、
子どもは、早くから大人のように理性的に振る舞おうとする。

そうした女性や子どもへの視線は今後、
都市化が進むにつれてますます重要な問題になってくると思うが、
最近、女性や子どもだけでなく、男性も同じように、
都市化の中で阻害されているのではないかと感じることがある。
というよりも、男性こそ、今後、都市化によって、必要とされなくなっていくのではないか。
今の都市化は、女性や子どもの身体性を男性が否定しているようにも見えるが、
今後は、男性こそが、都市化からその男性性を否定されていくのではないだろうか。

その理由としては、まず第一に、都市化・情報科社会では、
男の肉体がまったくといっていいほど必要とされていないことがあげられる。
農業や林業などの第一次産業に就く割合が全体の5%にも満たない社会では、
肉体を使って仕事をすることがほとんどなくなった。
仕事に限らず、生活の中でも、男性の腕力の強さや持久力が活かされることはなく、
ジャムの瓶を空けたり、重いダンボールを持つ場面くらいでしか、
男性の肉体が役に立たなくなっている。
一方で、家庭でのDVや学校での体罰など、
男性の腕力の強さがマイナスに働いている場面は多く、
今、社会問題とされていることのいくつかは、
男性が自身の肉体をうまくコントロールできていないことに遠因があるように思える。

また、男性の特徴である強い食欲や性欲も、肉体同様に、
都市化社会ではまったく必要とされていない。
日本に限らず多くの先進国では、たくさん食べることがもはや男性の魅力とはみなされない。
食欲が生活習慣病やメタボリックと結び付けて語られるように、
現代では、たくさん食べたりたくさん飲む行為が理性を欠いた行為に映る。
「酒豪」などという言葉もすでに死語に近く、
たくさんお酒を飲めることを誰もかっこいいとは思わなくなってしまった。
食欲旺盛であることがエネルギッシュであることを意味した
「24時間働けますか?」の時代から、
ワークライフバランスを重視した「働き方改革」の時代になった今では、
エネルギーやスタミナがあるという男性的性質は、男性の魅力ではなくなっているのだ。

また、食欲と同様、性欲も、少子化が進む都市社会では必要とされていない。
当たり前に子どもを5,6人産んでいた時代と違い、
合計特殊出生率が1.5を切る現代では、男性が強い性欲を持つ必要がない。
「酒豪」が褒め言葉でなくなったのと同様に、
「絶倫」も男を褒める言葉ではなくなっており、
不倫が社会的悪として、よりバッシングされるようになった社会では、
性欲は邪魔なものにすら映る。
その結果か、日本は他国に比べて性交の頻度が少なく、
それを裏付けるように、現代男性の精子の量は減っている。
一方で、性犯罪に及ぶ加害者のほとんどは男性で、
男性だけが性欲をうまくコントロールできずに他人を傷つけている。
制御しきれない性欲が犯罪を生むならば、
はじめからなんらかの方法で男性の性欲を減退させればよいとする一部の意見にも
正当性があるように思える。

それでもまだ現代は、子孫を残すために男性の性欲は必要不可欠なものとみなされている。
しかし、今後、遺伝子工学が進み、人工授精が当たり前になれば、
子どもを産む際に、男性の性欲は必要なくなる。
女性が、精子バンクから選んだ好みの精子を、冷凍保存した自分の卵子に注入し、
人工的に子どもを作るようになれば、子どもを産むために男性との性交は不要になる。
今はまだ抵抗感のある人工授精も、技術の発達によって確実に今後、加速していくだろう。
人間の寿命は長くなったが、
それに対して、女性が妊娠できる時期は大して長くなっておらず、
そのアンバランスさと不自由さは、今後多くの人たちを人工授精に向かわせると考えられる。

また、仕事の面においても、女性の社会進出は進んでおり、
経済的に男性を必要としない女性は増えている。
経済的にも、子作りの面でも男性に頼らなくてよくなった女性は、
これまでとは違うことを男性に求めるようになる。
例えば、一緒に家事をしてくれることだったり、
例えば、一緒にいて安心させてくれることだったり。
しかしながら、それは男性でなければならないわけではない。
むしろ、同性の友達や母親など、女性がうまくやれることも多い。
男性が持つ男性的な性質が今や必要とされなくなり、
その男性性は、むしろマイナス面に強く働いている。
そんな社会で、男性は、今後、なにをすればいいのだろうか。
(つづく)