緊急事態宣言

新型コロナウィルスによる「緊急事態宣言」が全国に拡大された。
今年1月の段階では、誰もこんな状況が訪れるとは予想していなかっただろうが、
新型コロナウィルスによって多くの人の生活は変更を余儀なくされ、
今後も、長いことその変化を受け入れながらの生活が続くと思われる。
新型コロナに対するワクチンは早くても1年半から2年はかかると、
ワクチンを以前から強く推奨しているアメリカの大富豪ビル・ゲイツが言っているので、
「早くても1年半はかかるわけかぁ」と思ってしまうが、
ワクチンが必ずできるという保証など、今のところどこにもない。

HIVウィルスのように、ワクチンができずに、
病気にかかることを社会全体で避けるしかない可能性だって十分あるのだ。
どこかの頭のいい人たちがそのうち解決策を見つけて、
元の生活に戻れるだろうと楽観視しるのはお気楽すぎるのかもしれない。

世界の国々はウィルスによって多くの感染者と死亡者を出しており、
日本も社会機能を低下させながらウィルスに対処している国の一つだが、
新型コロナウィルスにうまく対応している国もある。
台湾はその筆頭で、現在の一日の新規感染者は数人程度、
政府も特に外出自粛などを求めていない中でうまくウィルスを抑えている。
その知見が、WHO非加入という理由で世界の国々と共有されていないことは
人類にとってのマイナスでしかないと思うのだが、
その台湾が今の所うまくいっているのが、
国外から人をほとんど入れていないからということは忘れてはならない。
つまり、「鎖国」しているから収まっているように見えるだけであって、
国を開けば、また感染者は増えることが目に見えている。
そうであれば、ここから数年間は、どの国も鎖国するしかなくなるわけで、
国をまたいだ人の交流は大きく制限されることになる。
そして、国外同様、国内でも人と人との距離を取ること
(ソーシャルディスタンシング)が推奨され、
段階的に緩められながらも、人と人との接触に対して慎重になり、
人が集まることに対して非常にセンシティブな時代に突入するだろう。

そのことが、これまで世界中が進めてきたグローバル化や都市化に対する
ものすごいカウンターパンチだと言って批評的になることもできるのだが、
なんの心配もなく人と人とが会ったり、
楽しく酒を酌み交わして談笑することができないということは、
人間の基本性質である、社交性や社会性を否定する流れである。
人が人と交わらなければ、文化も生まれない。

日本の歴史上、世界に誇れる芸術家は茶聖・千利休だけだと言われるが、
千利休が一流の美に昇華させた茶の湯も、人との交わりが生んだ芸術だった。
利休の作と言われる茶室は二畳しかない狭い空間で、
閉鎖的な空間が密な人間関係と独創的な美を作ったのだ。
利休が茶の湯を大成させた当時は戦国時代で、
そのへんに死体がゴロゴロ転がっていた時代でもあり、
それは、扱い方ひとつ間違えれば、
感染症が簡単に蔓延してしまう社会でもあっただろうに
戦国武将たちは、好んで狭い茶室の中で膝を突き合わせて会話し、
歴史に残る文化を育んだ。
その茶室は、いわゆる「3密」のど真ん中を行く空間なので、
現在、日本全土の茶会は中止せざるを得ない状況になっている。
また、茶会に参加する人たちの平均年齢が高いことを考えると、
今後も、茶会の開催は慎重にならざるをえないだろう。

今回の惨事で、今後、社会のデジタル化が促進されたり、
大都市一極集中が緩和されていくということも言われているが、
人との接触にどれほど神経を尖らせるかによって、
生活の変化具合はだいぶ変わるだろう。
知らない人と会って話すこと自体を忌避するような社会になれば、
それは相当色々な考え方や社会での動き方が変わっていく。
それに対し、人との接触は問題とせず、
多くの人が一同に集まることに対してのみ慎重になる社会になれば、
交流のサイズを変えたり、デジタル技術を用いて違う形の集まり方を提案することで、
文化は歩みを止めることはないだろう。

解剖学者の養老孟司先生は今回のことに関して紙上で、
「みんな生き物を軽く見てるんだよ」と言い、
「人間に都合の悪いコロナも多様性の一つ」と見解を述べられていた。
ぼく含め、ほとんどの人はこれから社会がどうなるか経済がどうなるかと、
人間社会の話ばかりしているが、
これは、生き物としてのヒトがどう生き延びていくかの話でもある。
人間社会の中しか見えない近視眼的なレンズを外し、
立ち止まって考えるには、今回の惨事は十分なきっかけである。
周囲に感染の危険が迫っておらず、自宅で暇を持て余している人は、
今回の自粛要請期間に、人間社会外のことを考えるのもいいと思う。
それは、今後どうすればうまくいくのか(HOW)を問うのでなく、
なにが起こっているのか(WHAT)を考えるということでもある。