血尿

テレビである芸人が、ガンを早期で発見したという話をしていた。
ある日、血尿が出て驚き、痛みは感じなかったものの、一応病院に行って検査してもらうと、膀胱ガンが見つかったという。
「いやぁ、病院って行っておくもんですね」と、その芸人は言っていた。

血尿が出たら大変だ。
いつもは赤くないものが赤いのだから、驚いても仕方ない。
尿に血が混じっているのだから、なんらかのサインだと思うべきだろう。

そう思うのは、僕も、小学生の頃、突如、血尿が出て、呆然としたことがあるからだ。
当時、「血尿」という言葉を知っていたかどうかも怪しいが、ストレスが溜まりすぎると、おしっこと一緒に血が出るくらいの知識は、マンガかドラマで知っていたのかもしれない。

小学生だった頃のある日、いつものように尿意をもよおし、適当な空き地で立ちションをしようと、足元の雑草に尿をかけようとした瞬間、とんでもない尿の色にぼくは、愕然とした。
尿が、これまで見たことないような赤だったのだ。
それまで、「デカビタC」を飲みすぎた後に、尿が少し濃い黄色だったことはあったものの、そんなものとは比較にならないくらいの真っ赤な尿。
真っ赤というか真紅。
ど、どうしよう。
おしっこの代わりに血が出てきた・・・。
こ、これは、とにかく、大変な自体だ・・・。

目の前で止めどなく流れる尿の赤さに動転したぼくは、とりあえず、キュッと股に力を入れて、赤いおしっこを止めた。
尿を止めても、力を緩めれば、また赤いおしっこは出るのだが、とりあえず、一旦止めて、考えたかった。
一旦、落ち着こう。

そう思っても落ち着かないぼくの頭は、いろんな思いを巡らせる。
おしっこの代わりに血が出てるって、大変なことだよね。
お母さんになんて言えばいいんだろう。
昨日、なんか変なもの食べたっけ。
でも、意外と痛くはないんだよな。
でも、明日、病院行くんだろうな。
おれ、病気なのか・・・。

そう考えているうちに、股の我慢は限界に達し、また赤いおしっこは、少しの間不条理に止められていた分、勢いよく、出始めた。
あー、ほんとうに、赤い。
やばい、赤さだよ。
これ、どうすんだよ・・・と、半べそをかきながら、視線を上げてみると、なんだか違和感を感じる。
ん?
なにか、いつもの景色と違う。
そう思って、ふと、西の方を眺めると、そこには、大きな大きな夕陽が西の山に沈んでいた。
それはそれは、鮮やかな赤い夕陽で、世界中を赤く染めんばかりに、とっぷり暮れかかっていて、見ると、ぼくのおしっこだけでなく、おしっこがかかっている草も、草に止まっていたトンボの羽根も、別のトンボがホバリングしている川の水面も、全部、真っ赤だった。
あぁ、あぁ、そうか。
これ、血のおしっこじゃなくて、夕陽に照らされたおしっこなんだ。

そう気づいた僕は、安堵のあまり、腰の力が抜けそうになった。
あぁ、よかった。
血尿じゃなかったんだ。
なにも心配しなくていいんだね。
やったー。
やったー。
そして両手でガッツポーズしようと思ったものの、片手は離せなかったため、もう片方の手だけで強くガッツポーズした。

経験者、かく語りき。
テレビの中で芸人が「いやぁ、びっくりしましたねえ」と言うのを聞きながら、「ぼくはあなたの気持ち、わかるよ」とシンパシーを感じていた。
まぁ、ぼくは、実際、血尿は出てないんだけど、問題は、そこじゃないよね。
問題は、あの赤さへの驚きだよね。
夕陽って、こんなにも世界を赤く染めるんだなぁ・・・。