面接

これまで、アルバイトの面接に10回以上落ちた。
倍率の高いアルバイトばかりを受けてきたわけではない。
居酒屋とか、うどん屋とか、誰でも簡単に受かるそのへんのアルバイトだ。

面接に5,6回落ちたあたりで、なにかが変だぞと思った。
なんで面接に落ちるんだろう。
そう友達に話すと、
「アルバイトの面接に落ちるなんて、何かが決定的に欠落しているとしか思えない。
普通では考えられない」と言われた。
だが、そう言われても、自分ではなにが欠落しているのかわからない。
原因がわからないと、結果は変わらない。
その後も、不合格の電話は続いた。

「面接に行く際の服装が悪いんじゃないか」とか
「バイトに入れる日数が少ないんじゃないか」とも友達に指摘されたが、
服装は、襟のついた服を選んで着て行っていたし、
「土日も含め、週6で入れます」と言ったのに落ちたアルバイトさえあった。
唯一、即決で受かったのは、チョコレート屋さんの短期バイトだったが、
ずっと倉庫で待機しているだけの仕事だった。
もしかしたら、人前に出せないなにかが、僕にはあるのかもしれない。

巷では「面接は始まって3分で決まる」と言われる。
「5分」という人もいるし、「1分」という人もいる。
何分なのかはそれぞれの言い方によるだろうが、
みんなが言いたいことは、「すぐに決まる」ということだ。
面接会場に入ってきた瞬間に、「あ、だめだな」と判断される場合もあるし、
面接官と向き合い、話した瞬間に、「これは、採用だな」と判断される場合もある。

そうやってほとんど口を開く前に判断を下されてしまうのは、
人間が、言葉の内容ではなく、「非言語」の部分で多くを判断をしているからだ。
見た目や姿勢、仕草、目線、表情、しゃべり方、相づちの打ち方、などなど。

例えば「交通量調査のアルバイトを雇うための面接」なら、
受験者を見るポイントは、
「真面目そうか」「長時間労働に耐えられそうか」「ちゃんと現場にくるかどうか」
くらいだろう。

しかし、企業の面接や、学校の面接で面接官が見ようとしているのは、
「その人を仲間にしたいか」「一緒にやっていきたいか」どうかであり、
より「直感」がものを言う。
彼らは、言葉を聞くための耳ではなく、匂いを嗅ぐための鼻をピクピクさせ、
受験者が「我々」の仲間にふさわしいかどうかを判断するのだ。

そう思うと、これまで僕を落としてきた10人以上の面接官は、
僕に、「違う匂い」を感じたのだろう。
「週6で入れるって、それはそれでありがたいんだけど、なんか匂うんだよな」
言葉の上では良いことを言っているように聞こえるが、鼻が「NO」と言ってくる。

そうやって、なんども不採用の電話を受けていると、
次第にこちらも、「自分の匂いをできるだけ消さねば」と考えるようになる。
自分をなるべく出さずに行こう。
面接にいく前、言葉に、仕草に、感情に、見えない消臭剤を吹きかける。

しかし、いくら頑張っても、面接に受かることができない。
臭う者は、頑張ってみても、自分の匂いに気づくことができない。

どうにか面接で普通を装い、必要書類に丁寧な字で記入し、
当たり障りない発言をしたつもりでも、家に帰ってみると、
胸に「救世主教 東京都教会」と印字されたボールペンを差していたことに気づく。
どこかでもらったキリスト教のボールペン。
たぶん、面接官はそのペンの文字なんか読んでいないだろうし、
キリスト教のボールペンを持っていたとしても合否には関係ないだろうが、
関係する場合だってあるかもしれない。
なにせ「救世主教」だ。
そして、僕には、
そのささいなペンが合否に関係するかもしれないと気づく知性を持ち合わせているのに、
ペンに気づかず胸に差して面接に行ってしまう。
そんなことをしているということは、
他にも、気づかずやってしまっているダメなことがあるのだろう。
持ち物だけでなく、物言いや、目線や、表情や仕草において、
面接でやってはいけないなにかを。

最近はテレワークも増え、インターネットを介してできるアルバイトも増えているため、
実際に面と向かって面接をせずに始められる仕事も多い。
僕のような人間にとっては、ありがたい時代だ。
だけど、もし、僕がこれまで、10回以上の不採用電話を受けずにきていたら、
自分の匂いに気づくこともなかっただろう。

高校生の頃、脇のニオイがきつかったある同級生に、
「お前はワキガだ」と、意を決して伝えた友達がいた。
そう言われた男子は、涙を流して、
「教えてくれてありがとう」と感謝し、
言った男子も「一緒に治して行こうな」と殊勝な態度だった。
男同士で臭くむさ苦しい部屋だったが、美しい風景だった。

そう。
「お前は匂うぞ」と教えてくれる人は、貴重なのだ。
僕も、これまで落としてくれた会社に感謝すべきなのかもしれない。
「臭うことを教えてくれてありがとう」と。
しかし、そのワキガの友達と違い、
比喩としての匂いは、自分で気づいたからといって、簡単には消せない。
むしろ、歳を重ねるごとに、染み付いた匂いは深まる。
今、会社の面接を受ければ、確実に不採用電話を受ける自信がある。
一刻も早く、テレワークの普及を望む。