「勝ってる?」
家に帰ってきた僕がそう聞いて、
「うん。勝ってる勝ってる」
家族の誰かがそう答えたら、
それは、「(ジャイアンツが)勝ってる」ってことだった。
ジャイアンツの全試合がテレビ中継されていた少年時代の話。
今、広島の家庭で同じ会話がなされていれば、
それは「(カープが)勝ってる」ってことだ。
もし、それが、札幌ならば、「(ファイターズ)が勝ってる」ってことで、
仙台だったら、「(イーグルスが)勝ってる」ってことだ。
その土地土地で、当たり前のように皆が応援しているチームというのがあって、
そこでは、「(勝っているのが誰かという)主語」はいらない。
誰しもが、当然のように、「主語」をわかった上で、会話している。
「勝ってる?」と聞かれて、
「どっちが?」と返したら、
それはまだチームが土地に根付いていない証拠。
ファイターズが東京から移ったばかりの頃の北海道民や、
イーグルスがスタートしたばかりの頃の仙台民は、
多分、ちゃんと、皆、「主語」をつけて話していた。
「”ファイターズ”、勝ってる?」
「”イーグルス”、勝ってる?」
それがだんだん、主語なしでも会話がなりたつようになっていき、
「主語」を飛ばして会話するのが当たり前になった頃に、
別の土地では、街にいたチームがいなくなったり、本拠地が変わったりして、
「主語」が誰なのか、わからない家庭がちらほら出てくる。
日本ハムファイターズが東京から出ていった後の、
東京在住のファイターズファンの家や、
西鉄ライオンズが福岡から出ていって、
新たに南海ホークスが福岡に入ってきた頃の、
福岡在住の西鉄ライオンズファンの家では、
当たり前だった「主語」が、よくわからなくなっただろう。
「勝ってる?」
「んぉ・・・どっちが!?」
日本語は、「主語」を省いても意味が通じやすい言葉で、
家族間の会話では特に省かれやすい。
「主語」なしでも会話が進むのは、
お互いが、前提をきちんと共有できているからで、
暗黙の部分を、お互いが、想像できるからだ。
「勝ってる?」
この、「主語」を、話すほうが省略する代わりに、
聞くほうが、想像で補わなければならないのが日本語で、
息子が、父親が、弟が、どこを応援しているか、
ちゃんと慮ってその質問に答えてやるのが、「日本人」なのだ。
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