これからの英語教育

昨年の11月に、東京都立高校入試において英語のスピーキングテストが実施された。
国内で初めてとなる公立学校入試における一斉のスピーキングテストは物議を醸し、実施の見直しや改善案を含めて議論が活発化している。
これまで長い間、日本の英語教育はリーディング中心と言われ、批判の的となってきた。
その後、4技能を総合的に学ぶ必要性が謳われ、2006年にセンター試験でのリスニングテストが始まった。
今回は、それがスピーキングにまで及んだ形である。
近年は、グローバ ル化に伴い、学校で学んだ英語は実用的であるべきとする考えが主流だが、限られた授業時間の中で、学校英語は何を優先し、どうあるべきなのだ ろうか。

<学校英語は実用的であるべきか>
2023年度から始まる高校の新学習指導要領において、「現代の国語」が必修科目として新設される。
これにより、国語の授業の中で、より実用的で社会で使える文章を学ぶ割合が増え、小説や古典などの文学を教える時間が大幅に減ることになった。
この変化に対して、「国語は役に立つことだけを教えるべきなのか」という議論が、近年、巻き起こ
った。
個人的には「国語は役に立つことだけを教えるべきではない」と考えるが、翻って、「英語」に関しては、「役に立つことだけでもよいのではないか」と思う。
「英語」 が他教科と違うのは、実用性(役に立つこと)が前提として共有されていることである。
最初から非母語話者の立場に立つ多くの日本人は、英語を「外国語でコミュニケーションを取るツール」として割り切り、なるべく効率よくそのツールを習得しようと考える。
しかしながら、科目としての「英語」 は街なかに溢れる英会話スクールや英語塾とは異なるアプローチで進められる。
目的はどちらも「外国語でコミュニケーションを取ること」のはずなのに、手段が異なるのはなぜだろうか。

<学校教育としての「英語」>
英語を扱う営利企業が、英会話の能力や英語での ライティング力を向上させる最短の方法としてそれぞれのノウハウを提供するのに対し、科目としての「英語」では、それだけでなく、外国語を通して他国の文化や自国の文化を知ることも授業の目的としている。
例えば、マーティン・ルーサー・ キングの有名な「I have a dream」の演説を題材として取り上げる際、企業ならば演説で使われている英語自体に注目し、それを暗記したり、復唱したり、英語表現を真似たりするだろうが、学校英語では、その演説の背景や演説が与えた影響などのアメリカ文化や民主主義の歴史をも学ばせよ うとする。
そうすると、当然ながら、外国語とし てのスキル獲得に費やされる時間は減少する。
中学・高校合わせた英語の総授業時間は 700~800時間しかなく、国際的英語基準である CEFLのB2レベル(基礎と上級の間:自立した 言語使用者)に到達するためには、3000時間は最低でもかかるといわれる。
このことからも、圧倒的に英語の習得に費やす時間が足りないことはわかる。
文部科学省は、中学・高校で覚える単語の数を増加しようとしているが、どれだけ目標値をあげたところで授業時間は限られており、その中でできることは制限されている。
なにを優先し、なにを切り捨てるのかの判断が必要とされている中「英語」が社会に求められていることを鑑みると、授業としての「英語」はスキル習得に専念してよい のではないだろうか。

<舵を切る時期>
現在はオンライン英会話のサービスも低価格化している。
「英語」の授業を外国語習得のみの時間と割り切り、生徒を外国人とオンラインで話させることで、大幅なアウトプットの時間が確保できる。
英語習得 に不足しているのは圧倒的なインプットとアウトプットの量であり、特に、アウトプットは 30人以上の生徒が一斉に学ぶクラスでは ALT が一人や二人いたとしてもまったく対応できない。
800 時間足らずの総授業時間で、十分な会話や発言機会を担保することはできない。
リスニングはクラス全体で同時に学習できるが、スピーキングは絶対的に個別に話す機会を設ける必要がある。
そこで外国人と個別に低料金で話せるオンラインサー ビスを導入し、生徒一人ひとりが個別に英語をア ウトプットする時間を作ることができれば、限られた時間で数多くのアウトプット機会を確保できる。

英語には個別の機会がどうしても必要であることを考えれば、これからの英語の授業は集団授業と個別授業をうまく組み合わせ、アウトプット学習をドリル的にこなしていくスタイルを取ることになるだろう。
英語の授業で求められることはこの 10 年で飛躍的に増えており、4 技能を総合的に伸ばしていくことが急務ならば、こうした変則的に思える授業スタイルの選択が必要になってくるだろう。
クラス全員が先生の「リピートアフターミー」の声に続いて繰り返すよ うな授業スタイルは、英会話オンラインサービス も Youtube もなく、英語に触れる機会が極端に少なかった時代の授業風景である。
社会の変化は「英語」の変化を確実に後押ししている。

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