たとえ

  

話のうまい人は、説明がうまい。
説明のうまい人は、たいてい、例えもうまい。
いい宗教者は、いい例えを使いこなすもので、
イエス・キリストは
「富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい」
とか
「天国は、畑に隠してある宝のようなものである」
とか、うまい例えを使って、いろんなことを話した。
むしろ、例えを使ってしか、民衆に話さなかったとも言われている。

夏目漱石は、高校で英語を教えていた際、
生徒から
「possible」と「probable」の違いを質問され、
「私がこの教壇上で逆立ちをすることはpossibleであるが、probableではない」
と答えたと言われている。
壇上で逆立ちすることは可能だが、ありそうなことではない。
possibleだが、probableではない。
説明がわかりやすくて、いい。

先日、高校生に英語を教えていた際、
「馬鹿」を英語でどう言うかという話で、
「foolish」と「stupid」の違いは何かと、質問されたので、
「9回2アウト3塁なのに、サインの見間違えからスクイズして、
ゲームセットにしてしまうようなバッターはfoolish。

 9回2アウト2塁で、バッターボックスはチームの4番なのに、
無理して3盗してゲームセットにしてしまう2塁ランナーはstupid」

そう答えると、皆、ポカンとしていた。
なにしろ、聞いていたのは全員、女生徒だ。
さっぱりわからないという顔をしていた。

以前、同じように教えた男子たちは、膝を打って、
「へぇー、なるほど」って言ってたのに。

例えは、しゃべる相手によって変えないと、
効果は半減する。
そういう使い分けができる人のことを、話のうまい人って言うんだろうな。

 

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