マンゴー・アイスクリーム

マンゴー味のアイスクリームを3才の娘が食べていて、僕だってアイスクリーム食べたいのに、この娘は腕で囲うようにして、独り占めして食べているので、「マンゴーも食べたことない人間がマンゴーより先にマンゴー・アイスクリーム食べてからに」と心の中でつぶやいて、一口、強奪する。

アイスクリームといえば「バニラ」か「チョコレート」ぐらいしか知らない娘に、自分が今何味のアイスクリームを食べているか教えてやろうと、「それ、何の味がする?」と聞くと、娘は、それは何の質問やねん、みたいな関西育ちの上目で僕を見てから、「これの味がする」と答える。

「それ何の味がする?」に対して、「これ、これの味がする」
あぁ、その答えは、まさしく、「一粒の砂を説明するには一粒の砂が要る」といった禅僧の箴言と同じだなとしみじみして、玉露をすする。

食べたものの味が「バニラ」でも「マンゴー」でも、それはせいぜいが「言葉」であり、本当に感じた味そのものを指すわけではない。
子どもは「月」を見ているが、言葉に囚われた大人は、「月を指す指」を見ている。
「月」を指す指を見て、それを「月」だと思いこむ大人は、本来感じるべき「味」を忘れ、メニューに記してある「バニラ」や「マンゴー」のような言葉を食べて満足する。
「バニラ」といっても「マンゴー」といっても所詮はフレーバーでしかなく、本物のマンゴーでもないのに、「マンゴー」という言葉に踊っているように見える大人に投じる、三才児の反射的警策。
娘の反射的な良い返しに押し黙ってしまい、それ以後の強奪を控えることにした父のため、娘は生まれて初めてのマンゴー・アイスクリームをめでたく、すべて自分のものとしました。

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