付ける名もない

付ける名もない

かつて紡績工場だった広場で
20代の中国人女性が3人
自転車に乗る練習をしている
子どもの頃、自転車に乗る機会がなかったのだろうか

「中国なのにな」
と勝手な国のイメージを重ねて不思議に思う

後ろで自転車を支える二人は
アドバイスなのか、中国語で何か叫んでいるが、
ハンドルを握る女性はそんなアドバイスを聞く余裕などないよう

元からの友人なのか
はたまた日本で知り合っただけの同僚なのか
異国の地で同年代の同性たちと大人になってから励む自転車の練習は
名付けようのない楽しさに満ちている

それは、小学生の頃、近所の子らと走り回った時とも
高校生の頃に、友人と土手で語りあった時とも
大人になって、同僚と居酒屋で飲み交わした時とも違う種類の楽しさである

おそらく日本での給料も待遇もさしてよくないであろう彼女たちは
日本人のほとんど誰よりも楽しげな時を過ごしているように見える

楽しさとは「感じる」ものなのか
それとも「思い出す」ものなのか
どちらにしても
それは両手の届く範囲内で感じる類のものであろう

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