「奇跡のレッスン」というテレビ番組がある。
日本でスポーツをしている小中学生に世界的なコーチをつけて、
一週間の間に子どもたちが成長する姿を映し出す番組。
そのゴルフ編を、たまたま観た。
タイガー・ウッズを小学生の頃に指導していたデュランさんという人が、
日本の公立高校のゴルフ部を指導しにやってきて、
まずは、子どもたちのプレーを確認する。
デュランさんは、子どもたちが、失敗したプレーばかり気にしている様子を見て、
「いい記憶のライブラリー」というノートを子どもたちに作らせ、
とにかく、うまくいった時のことだけをノートに書いていけというアドバイスを送る。
悪いショット、まずいパットのことはすべて忘れて、
うまくいった場合のみの感覚を覚え、それをノートに記し、
成功体験を、体と言葉で記憶させていこうとした。
番組では、それによって、子どもたちに変化が起こるのだが、
デュランさんは一週間限定のコーチなので、
その後、こども達がその習慣を続けたのかどうかはわからない。
続けたかもしれないし、部活の指導者が止めさせたかもしれない。
なにせ、そういうやり方は、日本の部活ではほとんど見られることがない。
うまくいかなかったことを反省することと、
うまくいかなかったことをすぐに忘れさせることは、
どちらが、教え方として、日本の子どもに合っているのだろうか。
たぶん、それは、ケース・バイ・ケースだし、
こどもと指導者と、その関係性によるのだろう。
ただ、おおむね、日本では、
うまくいかなかったことを簡単には忘れないように教える。
簡単に失敗を忘れて、また同じ失敗を繰り返すことを、
日本人は、「愚か」だと思っている節がある。
日本で一番成功した男の中の一人、徳川家康は、
変な顔の肖像画を終生、ずっと大事に持っていた。
「徳川家康三方ヶ原戦役画像」と呼ばれるその肖像画には、
憔悴して、しかめっ面をしたヘンテコな顔の家康が座っている。
「三方ヶ原の戦い」で、家康が武田信玄にコテンパンにやられ、
命からがら逃げ帰ってきた時の家康の姿を描いたものと言われており、
家康は、惨めにも、家臣数人と敗走してきた自分の姿を、
敢えて絵師に描かせたという。
そして、その絵を終生持ち続け、
天下取りへの階段を、順調に一歩一歩登っていっていた時期にさえ、
自分への戒めとして、折りに触れ、見かえしていたという。
日本のトップ・オブ・ザ・トップは、
自分の失敗を、決して忘れようとはしない。
失敗は忘れず、糧にする。
日本人は、そういうやり方を好いている。
その家康の肖像画は、実は、
「三方ヶ原の戦い」時に描かれたものではないと指摘する人もあるのだが、
すでに広まった家康の逸話があまりにも日本人にしっくりきすぎているので、
たぶん、今後も、
「三方ヶ原戦役画像」から名前が変わることはないだろう。
日本人は、「過去の失敗を忘れず、奢らず、上へ昇っていく」人が好きなのだ。
「失敗は忘れてもいいんだ」と、
アメリカのコーチに言われて付けた「いい記憶のライブラリーノート」を、
ゴルフ部の子どもたちは、まだ使っているだろうか。
日本の指導者で、失敗を忘れることを容認できる人は、
あまり多くないような気がする。
ただ、日本で一番成功したもうひとりの男・織田信長は、
戒めのために、自分の変な顔の肖像画を、
終生、大事に持っておくなんてことはしなかった。
信長は、失敗を振り返る暇なく、前へ前へ進んでいった。
そもそも信長は、自分のヘンテコな肖像画なんて絶対に描かせなかっただろうし、
絵師が信長をヘンテコに描こうものなら、その場で切り捨てていたはずだ。
信長は、家康とは、全然違う。
日本で一番成功した二人の男の間でも、
失敗に対する意見は違うのだ。
現代の子どもに対する教え方も、
たぶん、ケース・バイ・ケースだ。
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