殴打

アカデミー賞受賞式で俳優のウィル・スミスが、妻の脱毛症を笑いにした壇上のコメディアンを殴ったという「事件」があった。

ツイッターなどを見るかぎり、アメリカでは、ウィルを非難し、コメディアンを擁護する論調が強く、アカデミー協会も、ウィルの会員資格を剥奪するかどうかの話し合いをしているらしい。
それに対し、日本では、「ウィルよくやった」「言葉も暴力」といった、ウィル擁護派が多いように思える。

この件は、ウィルがどういう俳優であり、ウィルと妻との関係(不倫問題など)がどういう報道をされているか、また、アメリカにおけるスピーチやコメディやブラックジョークがどういうものかや、今年のアカデミー賞がウクライナのゼレンスキー大統領のスピーチを盛り込むことも考えていたなどの「反暴力」に対する風潮など、いろいろな要素が絡み合っているようなので、僕にはよくわからない。

ただ、日本人として「壇上の鉄拳」を見て、なによりも先に思い出すのは、野坂昭如による大島渚殴打事件である。
今回のウィルはパーでのビンタだったが、野坂はグーだった。
ただ、あれは祝辞を読む順番が飛ばされた野坂に、だいぶ酒が入っていたというどうしようもない状態があった。
どう見ても一方的に野坂が悪いのだし、今回の事件と、比較できるものではないだろう。

次に、「侮辱による暴力」を見て、スポーツ好きとしてまず思い出すのは、サッカー・フランス代表・ジダンによる頭突き事件である。
W杯決勝で優勝を目指すジダンは、相手ディフェンダーから家族に対する侮辱を受け、マテラッツィの胸を頭突きし、一発退場となった。
チームの優勝よりも、家族の侮辱に対する報復を選んだジダンは、後に「後悔はしていない」と述べたそうだが、当時、どれほどの議論になったのだろう。
ただ、スポーツでは、相手を挑発して普段どおりのプレーをさせないことも戦術の一つであるだけに、今回の「事件」とはまた違ったケースなのかもしれない。

そう考えると、今回の「事件」に似た事件は過去にあっても、参考になる事件はあまりなさそうである。
このまま行くと、今後、ウィルはアメリカ社会で窮地に立たされるかもしれないが、覚えていて損はないのは、野坂昭如と大島渚も、ジダンとマテラッツィも、事件後、ちゃんと、和解しているということである。
晴れの舞台での殴打事件は、一見、センセーショナルではあるが、個々人にとっては、ただのケンカである。
まずは、二人が仲直りすることが、ケンカを社会問題にまで大きくしない方法である。
そのためには、(ウィルはすでに謝っているので)、コメディアンのほうも、なんらかの謝罪をしなければならない。
もし、アメリカに「喧嘩両成敗」という言葉があればの話だが・・・。

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