理想の英語

日本人が英語を話す際の理想として思い出すのは、三島由紀夫と昭和天皇である。
この2人の英語を聞いてみると、日本語をしゃべるように英語をしゃべっていたことがわかる。
昭和天皇は日本語をしゃべるようなリズムで英語を話し、三島由紀夫は日本語で使うような語り口で英語を話す。

一般的に、母国語以外を話す際、その言語が持つ特徴に引っ張られて人は話し方を変えてしまうものである。
例えば西洋人が日本語を話す時はいつもより丁寧な物言いになるし、直接的でない表現を使う。
逆に、日本人が英語を話す時には、英語に引っ張られ、いつもより皆、饒舌になるし、直接的な言い方をするし、オープンマインドになりやすい。

三島由紀夫や昭和天皇は、こうした他言語に引っ張られずに自分の考えを他言語で話していたのだけど、ただ、考えてみると、外国語を学ぶというのは、言葉を通して他国の文化を学ぶということでもある。
例えば、それは方言とも同じであり、私たちが大阪に行って現地の人が話す大阪弁に影響されることによって大阪人のメンタリティーを理解するように、英語に引っ張られることで、我々が英語を使う現地の人々の心情を理解することを考えると、別に三島由紀夫や昭和天皇の英語の話し方はまったくもって理想ではないのかもしれない。
それよりも、我々が、現地の英語ネイティブスピーカーの話し方を真似してみることで、英語話者っぽい英語を話そうとすることは、言語の持つ力を感受しているという点で、そんなに悪くないだろう。

ただ、もしかしたら、三島由紀夫や昭和天皇は、最初から自分の話芸の形を壊さなかったのではなく、英語を学び始めた段階では、ネイティブスピーカーを真似してネイティブっぽく話してみて、英語をある程度習得できた後に、自分の話芸スタイルをインストールし直したのかもしれない。
我々は、三島由紀夫や昭和天皇の完成形しか見ていないのでなんともいえないのだが、真似するということは第一歩であり、その先に、三島由紀夫や昭和天皇のようなスタイルがあるのだとすれば、まずは、一般的な英語ネイティブの真似から入るのは王道であるし、かつ、三島由紀夫や昭和天皇のスタイルを完成形だとするならば、二人の英語の真似から入るのも、それはそれで一つの理想に近づく道なのかもしれない。

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