秋一番

ここ島根は、8月の最終日に、”秋一番”が吹いた。
前日とは明らかに違う、秋を知らせる、”秋一番”。
今年の秋は、ほぼカレンダー通りにやってきた。
今後、また蒸し返す可能性はあるが、
”秋一番”が吹いた以上、もう、秋は始まったといえる。
これから、サンマや栗など、おいしいものの季節がやってくる。
例年より早く秋が始まった街には、うまいものより先に、
長袖の人たちが溢れ、もう、みんな、秋に向けて衣替えををはじめている。
おしゃれな人は、季節に遅れることがない。
たいていの人がまだ夏服で大丈夫かなと思っている時に、
もう秋服を着ている。
オシャレは我慢だとも言われるが、
まだ半袖を着ていたい時期に長袖を着るのが
半歩先ゆく、ファッショニスタの条件だ。

「長袖」は以前、特定の職業の人だけが着ていた服で、
それらを着ていた医師や僧侶など、身分の高い人たちのことを
長袖(ちょうしゅう)と呼んでいた。
長袖(ちょうしゅう)は、権威を笠に着る人への蔑視でもあったようで、
西郷隆盛は、征韓論で公卿の岩倉具視と争った際、
岩倉の卑劣なやり方を「長袖者流」と非難した。
西郷自らが朝鮮へ行って説得することが閣議決定していたにもかかわらず、
渡欧から戻ってきた岩倉具視があらゆる手で、これを覆したからだ。
西郷は、「敬天愛人」の人である。
長袖の下でコソコソ、権謀術数を巡らすようなことはしない。
「長袖」は、衣の下になにか隠すことの比喩であり、
賄賂を渡すことを「袖の下」というように、
悪巧みのイメージと結びつく。
Tシャツを着ている人は、袖の下になにかを隠すことはできない。
ものを隠すのは、長袖を着ている人だけだ。
これから秋になり、これまで一枚で済んでいた服が、
二枚、三枚と重ねられていく。
秋は、おいしいものがたくさん出回る季節。
重ねられた「長袖」は、いろんなものを覆い隠すことができますゆえ、
食べ過ぎ、体型の崩れには、くれぐれもご注意ください。

 

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