蜜月2

「蜜月」という言葉を聞いて思い返す、個人的な関係は、福岡の美容師さんとの関係で、通算でどのくらい通ったか忘れたが、福岡に住んでいない時でさえその人の元に通い続けていたので、美容師としゃべることが億劫な自分としては、珍しいくらい、大層な、「蜜月期間」でありました。
まぁ、でも、「蜜月」というからには、「蜜月」が終わる時期もその後に来るわけで、そのきっかけは、その美容院のオーナーが逮捕されるという事件から始まりました。

そもそも、その美容師がいた美容院は、店内に鹿の剥製とインディアンの装飾物が飾られているような、全体的に黒々とした店でした。
そこで働くスタッフは全員もれなく腕と足にタトゥーをいれていたので、別に、オーナーが逮捕されても、「なるほどですね」だけで納得したし、しかもその逮捕の理由が、「大麻栽培と販売」と聞いて、「なんて人は見かけによるんだ!」「逆に嘘がなくて信頼できる!」としか思わなかったので、ノーダメージだったのですが、僕の担当美容師さんは結婚したばかりで、奥さんとの今後のことも考えて、長年働いたその店を離れることになりました。

それでも「蜜月関係」を保っていた僕は、美容師さんの店が変わった後も、新しく変わった店に足繁く通うことにしたのですが、その新しい店というのが、「美容師を雇う」という従来のスタイルの店ではなく、「フリーの美容師がフリーランスとして店をシェアする」という、今どきの働き方スタイルの店だったのです。
それはそれで、まぁ新鮮だし、前の店とは違う明るい雰囲気に落ち着かない感じはあったものの、「店」ではなく「人」を優先した僕としては、大した問題ではなかったのですが、やはり、雇われでないことで気が緩んだのか、その美容師さんが担当してくれる際、じょじょにタバコの匂いがするようになったのです。
そこで、むむっと思ったのが蜜月関係の終わりの始まりでした。

あれだけ大麻とタバコの匂いがしていたた前の黒い店では何の匂いも発していなかった人が、無味無臭を体現したかのような、明るく白々とした美容室に移った瞬間、タバコの匂いを漂わせてくるとは、これ、どんな逆説?と首をかしげました。
今思えば、その匂いは、黒く暗い店で育った男に染み付いた匂いが、白く明るい店で際立って臭ってしまっただけだったと比喩的に思えるけど、当時の僕には、それが仕事上の気の緩みに思え、長く続いた「蜜月関係」は、唐突に終わりを告げたのでした。

大麻や逮捕くらいではビクともしなかった関係が、プロ意識の欠如によって一気に壊れたことは、自戒として、胸に残りました。
「金」や「店」ではなく「人」でつながっている以上、最低限の気の使いは忘れてはならないという、「現代のビジネス昔話」のような話でした。

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