10/1 天国のにおい

金木犀の香る季節になった。
僕の同級生の彼女のお父さんは、
「金木犀の香りは天国の香りなんだよ」と言っていたが、
どこかの宗教の経典にそう書いてあったなら、
僕はその宗教に入ってもいい。
そのくらいいい香りだと思う。

僕は金木犀の匂いをそのくらいいい匂いだと思うが、そう思わない人もいるらしい。
金木犀の匂いに、アレルギーにも近い感覚を持つ人もいるらしく、
この季節にはなるべく外を出歩かないようにしているという。

好きな匂いも好きずきだ。
病院の匂いが好きな人も、本の匂いが好きな人もいる。
雨の日のアスファルトの匂いやエレベーターの匂い、
三角コーナーやカビの匂いが好きな人もいる。
新札の匂いが好きだという人もいたが、
それは、お金が好きなだけだろう。

匂いは言葉との相性が悪い。
うまく言葉で説明することが難しい。
例えば、見知らぬ土地を電話でレポートすることになったとしよう。
目で見たものはなんとか伝えられるが、
鼻で嗅いだものはなかなか伝えられない。
今まで匂った経験からなんとか伝えようとするが、簡単にはいかない。
それを「一回性」と言うこともできる。
目で見たものは後で絵に書くことができるし、
耳で聞いた音は後で言葉にすることができるが、
鼻で嗅いだ匂いはなかなか再現ができない。
「その場限り」でしかない。

大学生時代、変な匂いのする友達がいた。
くさい匂いではなく、変な匂い。
運動した後などは特に強く、彼特有の体臭をプンプン周りに振りまいていた。
ある日、そいつと一緒に運動をし、ジャージのままカフェに入ると、
後から、美人な、彼の彼女もカフェにやってきて、
ソファで強烈な体臭を放っている彼に寄りかかった。

「女は、自分とは一番遠い匂いの男に惹かれる」
と何かで読んだことを、その瞬間、思い出した。
なるほど。
あの男の匂いが、彼女にとってのそれなのか。

彼女にとっては、彼の匂いが「その人限り」の匂いなんだな。
なるほど。ああいう匂いが・・・。
ああいう・・・、なんていうか、あの、その、
あいつの、あいつ特有の、あの、ああいう感じの匂いが・・・。

 

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