以前、京都・先斗町のバーにいたら、隣にブロンドヘアーのアングロサクソン(男)が座ってきた。
話していると会話がはずむので、近くの安い寿司屋のカウンターに座り話し込んだ。
彼はドイツ人で、大学院で建築を専攻した建築家の卵で、
現代芸術作家でもあるらしい。
夜遅くまで飲み、翌日は二人で、叡山電鉄に乗って、蔵馬温泉にでかけることにした。
ドイツ人に裸のつきあいができるのかな、と高みの見物をするつもりで見ていたけど、
なかなかどうして、お湯の楽しみ方といい、適度な距離感の取り方といい、
ナイスな湯浴ミニケーションのできるドイツ人だった。
彼はこれから画廊のオーナーに自分の作品をおいてもらうために会いにいったり、
SANAAの建築を始め、日本の地方にも有名建築を見に行くのだと言っていた。
これから日本の田舎に行くにあたって、
場末のスナックみたいなとこで田舎のおっちゃんたちとも仲良くしたいから、
田舎の人でも知っている日本のポップな歌を教えてくれと、彼は言う。
(彼と会った京都のバーも、おっちゃんがアコギ一本で演奏してるバーだった)
若者向けのポップミュージックでも、子供向けの童謡でもなく、
地方のおっちゃん達が好きそうな歌。
僕は、何がいいかな、と少し考えて、彼にワンフレーズずつ教えていった。
「これ、みんなが知ってるいい歌だから。後から、繰り返して」
「ok」
「なりてぇー、なりてぇー、なりてぇー、ちんぴらに、なりてぇー。」
「ナリテ、ナリテ、ナリテ、チェンピラにナリテー。」
いいぞ。なかなか上手い。
「そこがサビね。2回それを繰り返す。」
「ナリテ、ナリテ、ナリテ、チェンピラにナリテ」
「OK。いいよ。本物はもっと気持ちこめて歌うから」
「OK。もっとPassionateに」
「明ぁけてもー、暮れぇてもー、喧嘩で、パクられぇー、イキガったぁー」
「アーケテモ、クレテモー、ケンカデェ、パクラレぇー・・・」
歌えるようになるまで繰り返し教えてあげた後で、
この歌がどういう歌か説明した。
長渕剛がどういう人か。
長渕剛がなぜ田舎のおじさんに好かれているか。
そもそも、チンピラとは何なのか。
彼はそれをちゃんと理解したようだった。
一通りメロディを口ずさめるようになったので、先に風呂からあがる。
タオルを持って叡山電鉄に乗るのが面倒だったので、
体を拭くものを何も持ってきていない。
脱衣所の上で小さな扇風機が回っていたので、
その前に仁王立ちして濡れた体を乾かしていると、
湯から上がってきた彼が、何故タオルを使わないのかと聞いてきたので、
「日本の男ってのは、タオルを使わないもんなんだ。
それが、漢(おとこ)なんだよ。
お前もこれから田舎の銭湯行って、タオルなんか使ってたら、
その土地の男たちにばかにされるから、ちゃんと、扇風機使えよ」
と言っておいた。
帰りの電車の中でも彼は、忘れないように「泣いてチンピラ」を口ずさんでいた。
彼はこの後、北陸の片田舎の銭湯に行って、
場末のスナックで知り合ったおじさんたちと銭湯に行って、
タオルを使わずに、扇風機の前ででっかい体を乾かすんだろうな。
そう考えただけで、なんだか笑えてきた。
でも、彼がどんなへんてこりんなことしても、
その青い目で「泣いてチンピラ」を歌えたら、
日本のおじさん達は、みんな喜んで親切にしてくれるだろうよ。
長渕は、日本の男の心の歌だからね。
グッド・バイ&グッド・ラック!
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