京都にいた時、急な雨に振られることが多かった。
朝家を出た時は雲ひとつなかったのに、夕方には
傘が無ければ帰れないくらいのどしゃぶりになっている。
「何でこんなに急に天気が変わるんだよ、閉口するわ」
「閉口するわ」と会話や一人ごとで言ってる人は、
マジョリティではないと思う。
少なくともパルコやビブレではそんな人を見たことがない。
「閉口」は、口語ではあまり使わない。
僕は本からのインプットが多いので、
会話でつい熟語を使ってしまうのだが、
会話で使ってもいい言葉かどうかを見極めるのは難しい。
「このところ、自分の男性性を意識する機会が多いんだよね」
これは会話ではだめなやつ。正解はこう。
「最近、自分が男だってことを意識することが多くてさ」
若い人がタメ口を敬語に言い換えるのが難しいように、
書き言葉を話し言葉に言い換えるのもなかなか難しい。
熟語をつい使ってしまうのは、
会話で使ってもいいかどうかのラインをわかってない
ってこともあるが、他の理由もある。
10年ほど前になるだろうか、「キレる若者達」という
キーワードで教育が語られたことがあった。
問題とされている若者達は、すぐに「むかつく」と口走ると
多くの大人たちが嘆いていた。
僕は当時、若者側にくくられていたが、
「むかつく」などとは決して言わなかった。
多分、育ちがよかったせいだろう。
スーパーカップの蓋についたアイスをきれいに舐めても
怒られない品のいい家庭に育ったので、
言葉遣いもきれいになったのだと思う。
当時、若干20歳にしてすでに、
「人は話している言葉に飲み込まれるのだ」
ということに気付いていた僕は、
なるべく感情的な言葉を使わないようにしていた。
自分が口にした「ムカつく」は、自分を飲み込んでしまう。
負の感情に飲み込まれない、「ムカつく」以外の言葉で
感情を表現する必要がある。
食事中に平気でおならをし合う品のいい家庭で育った僕は、
そういう表現を考えていた。(つづく)
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