(前回からのつづき)
「ムカつく」という言葉はそう言った本人をイライラさせる。
「おい、うるさいぞ」「はあ?むかつくぅー」
これでは、イライラした気持ちは増長していくばかり。
もっと感情を乗せない言葉を使えば、
その気持ちも収まることだろうと考えた僕は友達と
「ムカつく」以外の言葉を普段から使うようにしていた。
「おい、うるさいぞ」「は?しゃくに触んなぁ」
これだと、むかつくよりも感情と言葉に距離ができる。
言われた瞬間イラッとした気持ちが
ダイレクトに言葉に乗っていかないので、
「ムカつく」感情が増長されることがない。
時間がたつと、違う言葉が流行った。
「おい、うるさいぞ」「は?とさかにくんだよ」
とさかとは鶏の頭のことで、「頭にくる」の頭に
「血が上る」感じを、赤い冠の鶏に重ねた言葉だと思う。
これだと、更に、感情から遠ざかる。
言われたことにイラッとはしても、
言った相手への敵意のようなものは生まない。
最後に流行ったのが、これ。
「おい、うるさいぞ」「は?はらわた煮えくりかえんだよ」
これだと言われた方は、相手が本気でイラッとしてるのか
わからないし、言った本人も、
自分が本気でイラッとしたのかどうかよくわからなくなる。
書き言葉は、負の感情を消しさってくれる。
急な雨に降られて、
「ムカつく」というより、舌打ちするより、
「閉口するわぁ」と言うほうが、「ムカつ」かない。
アンラッキーな自分を遠くで見ることができる。
ただ、そんな言葉ばかり話していると、
自分が本当のところどう感じているのかが、
わからなくなる。
若干20歳で「若者達は『ムカつく』に飲まれているな」
と気付いていた僕は、
「やっぱり人は書き言葉にも飲まれる」ことを知った。
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