タイのお寺に初めて行った際、
地元の住人と一緒にお参りしたことがあった。
靴を脱いでお堂に入り、6、7人が二列になって膝をつき、
仏像に手を合わせる。
僕の前には、若い地元の女性が3人跪き、
仏像に向かって熱心にぶつぶつつぶやいていた。
ふと足元を見ると三人が三人、足の裏が真っ黒だった。
彼女たちのきちんとした服装や髪の整え方からすると
想像以上の黒さだったので、
皆が仏像に向かって顎を上げている間、
僕はずっと彼女らの黒ずんだ足の裏をじっと見ていた。
裸足で台所を歩いているんだろう。
すぐ側の畑にもそのまま降りるのだろうか。それとも
スリッパはあるけど、それも泥で黒くなっているんだろうか。
夜、布団に入る時は、そのままだろうか、
少しは払うのだろうか、それとも水で洗うのだろうか。
お祈りが終わって三人が立ち上がった。
僕は立ち上がる前に自分の足の裏を見て、嘘だなと思った。
藤原新也は、ベストセラー「メメント・モリ」で、
沖縄かどこかの土地の写真でもって、
「この土地にはアリバイがある」と書いていたが、
彼女達の足の裏にも、生きているアリバイがあった。
誰も疑えない、確固たる「生」の証拠が刻まれていた。
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