「おかえり」に対応する言葉は、「ただいま」だが、
「おかえり」も「ただいま」も挨拶なので、
もう意味は吹き飛んでしまっているが、もともとは、
「お帰りなさいました」「只今、帰りました」と
言葉自体に意味があった。
すべての挨拶はそういうものなので、
「今日は」も「今晩は」も「有難う」も
元々意味があって使われていたフレーズだ。
「今日は、やけに降ってますなあ」
「恵みの雨でしょうなあ、有難いことですな」
挨拶と同じように、意味がないただのフレーズだと思って
いたのに、意味のある言葉だったという驚きの瞬間が、
僕には小学6年生の頃に訪れた。
何気なくアニメをテレビを見ていたら、
番組の途中で提供クレジットが流れた。
「ゴランノスポンサーノテイキョウデオオクリシマシタ」
これまで何度も、左耳から入って右耳に抜けていった
耳馴染みのある音声が、この日初めて、
脳を通る瞬間、急ブレーキをかけた。
え?え!?もしかして、これって、
「ご覧のスポンサーの提供でお送りしました」!?
びっくりした。もう、びっくりした。
まさか、今まで音としてしか認識していなかったあの音声に
意味があるなんて思ってもなかった。あの音は、
「テレフォンショッキング」が始まる時の音みたいな、
「徹子の部屋」の始まりを告げる音楽みたいな、
CMとCMをつなぐためのただの音声だと思っていたのに、
まさかあれに意味があったなんて!
サリバン先生に言葉を教わったヘレンケラーの気持ちだった。
水に触れたヘレンが手の平にW・A・T・E・Rと指で書かれて
初めてこの世に言葉を知った時のような、
言葉に意味があることに気付いた時のような、
そんな喜びと驚きで溢れた気持ちだった。
それ以後、僕はテレビのアニメ放送には
スポンサーがいることを知り、
金を出しているのは企業だということを知り、
アニメのスポンサーはバンダイやセガなどの
子供向け玩具会社だということ知った。
スポンサーには、アニメを見てもらおうとする意向だけでなく
アニメを見てる子どもに物を買わせようとする意向があること
を知ってしまった。
知ってしまったが、依然、バンダイのドラゴンボールカードは
欲しくて欲しくてたまらなかった。
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