友だちがインターネットで買ったコンタクトレンズは、
シンガポールの工場から送られてきた。
ネット社会に触れて、ふと豆腐屋の倅を思い出した。
豆腐を毎日売ってる彼が、ネットでコンタクトを買って、
シンガポールから届いたら、どう思っただろう。
「母さん、見てよ、ほら、コンタクト。
ネットでコンタクト頼んだらさ、シンガポールから来たよ。
なんでかわかる?軽いから。軽いから!郵送費かかんないから
世界のどこで作っても送れるんだね。すごいね。
豆腐とは違うね。キロ当たりの単価が桁違いだもんね。
えらい違いだよ。いいよね。水道費もかかんないしね。
昨日ググったら、武雄市の水道代、全国でも最悪レベルだってね。
そんなとこで毎日何百リットルの水使って、豆腐作って、
88円で売ってる俺らってなんなんだろうね。何で父さんは、
わざわざ水道代の高いとこで商売始めたんだろうね。
ねえ、母さん?何でか知ってる?ってか、聞いてる?」
豆腐は重い。重いのに安い。
コンタクトレンズは軽い。情報や金融やデザインも軽い。
軽いのに高い。
時代は軽さを求めているらしい。
豆腐を作ってる側からすると理不尽だが、
軽いものこそ高値で取引きされている。
なんて時代だ。
音楽も映画も重い題材は受け付けない。
フィクションの中で人間の本性や本質に向き合うほど、
みんな暇じゃない。みんな、忙しいのだ。
忙しい現代、ウェブの記事も3分で読める分量と言われた。
このコラム、数えたら、ここまで、522文字。
よし。2分で読める分量だ。
そういえば、東京オリンピックに水素ステーションが
設置されるらしい。なるほど。
ガソリンから水素へ。
時代は重いものから軽いものへとシフトしている。
言葉も軽いもの、男も軽い男がいいのかしらね。
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