たしか、5年くらい前の話。
様々な業種の人達が集まる場所で、ある人が大きな声で言っていた。
「いや、これからはIoTだから。IoT含めで考えてかないとさ」
IoTとはInternet of Things(もののインターネット)のことで、
色々なものがインターネットにつながる考え方のことだ。
例えば、家の鍵をIoT化することで、子どもが鍵をなくしても、
会社からスマホからの操作で開けることができたり、
高齢者が、鍵を使う時間帯のデータを蓄積することで、
ヘルパーさんの巡回を、効率よく回すことができたりする。
あまりにも彼が「IoT」を連発するので、近くにいた男性が、
「でも、もうシリコンバレーでは、
誰もIoTの話、しないらしいですよ」
と言った。
すると、IoTの彼は、徐々に、トーンダウンしてしまった。
僕は、傍らで彼らを見ていて、
そういう黙らせ方もあるのね、と思っていた。
「これからはストリーミング放送だから。テレビとか映画とか終わるかもね。
ストリーミング放送の予算、莫大になっちゃってるから」
「でもね、ハリウッドでは、
もう誰も、ストリーミングの話題、しないらしいよ」
「料理もさ、もうガストロノミーの時代なんだからさ、
分子レベルで考えないとさ。素材主義とかはさ、どうかと思うよ」
「いや、でも、もうフランスでは、
ガストロノミーって、話題にもあがらないらしいですよ」
君は最先端を走っていると思ってるかもしれないが、
それはもう、最先端ではないんだよ。
本当の最先端は、他にあるんだよ、と会話の中で示唆する。
最先端の話題は、最先端であることにのみ価値があるので、
最先端でなくなった瞬間に、その話の価値を失う。
ほんとうは、最先端だろうが最後尾だろうが、
いいものに変わりはないはずなのに・・・。
「今はもう玄米だよね。玄米の再評価、はんぱないらしいよ」
「いや、でも、マクロビオティック界隈では、
玄米って、もう、話題にもあがらないらしいっすよ」
「まじで?でも、玄米って、どう考えても、いいよね」
玄米が話題にあがらないのは、当たり前に”いい”からだ。
今の最先端は、いつかの時代遅れに似ている。
玄米が再評価されようがされまいが、玄米の良さは変わらない。
だから、IoTの彼も、言ってやればよかったのだ。
「シリコンバレーのギーク共が何だってんだよ。
IoTが話題にならないのは、IoT化が当たり前にいいからだろうよ」
でも、彼はそんな返しができなかった。
なぜなら、彼は「IoT」の話がしたかったんじゃなくて、
「最先端」の話がしたかったのだから。
「IoT」っていま、どうなってんのかな・・・。
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