テレビのニュース番組を見ていると、女子アナウンサーが叫んでいる。
「たくやー!」
木村ではない。
番組の取材で、屋外に出ている、同局のアナウンサーを呼んだのだ。
たくや?
なんで、このアナウンサーは、下の名前を呼んでいるのだろう。
私の記憶が確かならば、
この「ファーストネーム呼び」を最初に始めたのは、めざましテレビだ。
それぞれをそれぞれが下の名前で呼び合い始め、
その和気あいあいぶりを目にした他局の情報番組も、
瞬く間に、真似し始めた(予想だけど)。
NHKは今でも、さすがにファーストネームでは呼びあったりはしないだろうが、
どうだろう。
ニックネームで呼んだりすることも、あるのかもしれない。
各放送局が真似して、今なお「ファーストネーム呼び」が続けられているということは、
視聴者からも好意的に受け入れられているということなので、
お硬いNHKでも、ファーストネームで呼び合ったりするのかもしれない。
僕はいまだに、テレビで見る「ファーストネーム呼び」に慣れることができない。
それは、ニュース番組のアナウンサーだけでなく、
スポーツ選手がインタビューでチームメイトをニックネームで呼ぶのも慣れないし、
アイドルが同じグループの仲間を愛称で呼ぶのも慣れない。
それはたぶん、仲間内のノリを外でも使おうとする客観視点のなさが気になるから。
ただ、百歩譲って、アイドルはいいとしよう。
「にゃー」とか「みっぽん」とか、
正式な名前からは到底たどりつきそうにないようなニックネームでも、
その内輪の関係を楽しむのが、アイドルを楽しむということだろうから、気にしない。
しかし、スポーツ選手は、アイドルとは違う。
そもそも大人だし、見られていることに自覚を持つべき職業でもある。
サッカー選手が、インタビューで「ヤットさん」とか「ゴンさん」などと言っても、
一般の人は、どの選手のことを言っているのかわからない。
サッカーをまあまあ見ている僕でさえ、選手がインタビューで、
「シンジのプレーは」と発言すると、
一瞬、「香川真司」のことなのか、「岡崎慎司」のことなのか、わからなくなる。
選手同士がお互いをどう呼び合っているかまで、こちらは知らない。
まぁ、それもまたアイドルみたいな目で見てればいいのかな、と感じることもあるが、
日本代表のキャプテンは、選手のことをきちんと名字で呼んでいる。
あぁ、やっぱ、責任感ある人はこうなんだ・・・。
正しく伝えることが大事だと思っている人は、
自然と、人に伝わりやすい名前で呼ぶのだろう。
となると、アナウンサーたちは、ファーストネームで読んでいるアナウンサーの名字は、
正しく伝える必要がないと考えているのかもしれない。
たしかに、「たくやー!」と呼ばれた人の名字を正しく知りたいとは思わない。
正しく伝わらなくていい人の名前だけ、「ファーストネーム呼び」なのかな?
解剖学者の養老孟司先生は、ある本の中で、
「国際線に乗る時は、外国の航空会社に決めている」と言っていた。
飛行中、何か「有事」に巻き込まれてしまったら、
日本の航空会社の、綺麗できゃしゃなキャビンアテンダントよりも、
外国の航空会社に乗っている、屈強なおじさんやおばさんスタッフの方が頼りになるのだ、と。
「有事」に巻き込まれれる危険のある航空会社においては、
「有事」に強そうな会社を選択する必要があるのだろう。
テレビの中で、ファーストネームで呼び合うアナウンサーたちを見ていると、
「平時」なんだろうなと思う。
「平時」には、怖い顔をしたおばさんよりも、
綺麗できゃしゃな女性を、視聴者も見たい。
しかし、ニュース番組は、「有事」も扱う。
その時、「有事」に迅速に対応してくれる、屈強なおじさんやおばさんは、
どこかにいるのだろうか。
「平時」である普段の番組から、誰からもファーストネームで呼ばれず、
名字に「さん」付けて呼ばれているアナウンサーを、耳を動かして、探す。
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