3/26 社会の際で生きている人からの電話

Aさんという50代の知り合いがいる。
この世にぎりぎりで留まっている人で、
ちょっと気を抜くと世間とは離れたところに飛んでいってしまう。
Aさんのことなどすっかり忘れている頃、ふいに電話がかかってくる。

「あ、久しぶり?俺さぁ、先週、ポロックの回顧展を見に行ったんだよ」
「そうなんですか。最近、ちゃんと外、出てるんですね」
「いやぁ、回顧展に呼ばれたからさ」
「へぇ、呼ばれたんですか。美術館に知り合いがいるんですか?」
「いや、ポロックに呼ばれたんだ」
「ポロックに、呼ばれたんっすか・・・」
「そう」
「あの・・・、ポロックって、だいぶ前、死んでますよね」
「そうだね。回顧展だからな」
「・・・。どうでしたか、ポロックの回顧展は?」
「なかなかいい仕事してたよ。本人にもそう言っといた」
「ポロックに・・・」
「あいつも、これからが勝負だ、って言ってたよ」

もし死んだ画家が客を呼んできてくれるのなら、美術館として、こんな有り難いことはない。
僕たちはふらっと美術館に行こうかなと思ったりするけれど、
それを、死んだアーティストに呼ばれて美術館に行ったとは思わない。
けれど、死んだアーティストに呼ばれて行ったわけではない、
と言いきれるわけではない、よね。

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