「大名は昔はもっと、とんがっとった」
僕もそう思う。
福岡の中心地、天神に隣接する大名地区は、
それはそれはファッショナブルな街だった。
「それどこに売ってんすか?」って聞きたくなるような
個性的なファッションに身を包んだ多くの、ぎりっぎりで
きわっきわな人達が煙を吐きながら歩いていた。
しかしここ10年、15年で、ぎりっぎりできわっきわな人達は
どこかに消えてしまった。
あの人達が福岡から消えてしまったのか、
日本から消えてしまったのかはわからない。
大名は以前、小さくて個性的な個人の店がひしめいていたが、
若者に人気がでるに従って
大きな資本をもった大企業が進出してきた。
その影響で地価が高くなり、
大名は小さな個人店が手を出せない地区になった。
そうこうしてるうちに、リーマンブラザーズが
兄弟して倒れたせいで、大名に店を構えていた大企業は、
早々に福岡から撤退するか、駅隣接の商業施設に移っていった。
大企業が撤退して空いたでかいビルの広い空間に
小ぢんまりした個人店がフィットするはずもなく、
大名は、シャッターと「テナント募集」の紙が目立つ
歯の欠けた櫛のような街になってしまった。
そんな街に、ぎりっぎりできわっきわな人達が
戻ってくることはなかった。
そんな福岡のまちで以前、きわっきわなファッションをしていた友達が
「台湾の美術館に行ったよ」と、フェイスブック上で笑っている。
楽しそう。
こんなに楽しいなら、みんなに知らせてあげたい気持ちもわかる。
と、インスタグラムにも同じ写真をアップしていることに気づく。
こっちでも、楽しそう。
こんなに楽しいなら、両方にアップしたい気持ちもわかる。
ハイファッション業界では、
服が売れない原因は、SNSにあるとも言われる。
以前はとんがったファッションを着て自分を表現していた人達が、
SNSの登場で、服を買う必要がなくなった。
フェイスブックに日々をアップすれば、
インスタグラムに気に入った写真を載っけてれば、
自己表現は十分できる。
服よりもだんぜん情報量が多く、安い。
というか、タダだ。
大名のぎりっぎりで、きわっきわな人達を一掃させたのは、
世界中に店舗展開する大企業かもしれないし、
フェイスブックやインスタグラムかもしれない。
もしくは、それを全部含めた「時代」ってやつかもしれない。
SNSやインターネットの登場で、世界中どこからでも発信できるようになって、
東京やニューヨークが日本の、世界の、「中心」でなくなったのだから
同時に社会の「ギリ」や「際」が消えてしまうのは
しょうがないのかもしれない。
「中心」があってはじめて、「際」があるのだから。