小池都知事が会見で見せた「切り返し」がニュースになっていた。
知事が作った五輪調査チームは、五輪会場の見直し提案を行っていたのだが、
結局全て、元の計画通りに建設される見込みになりつつある。
そのことについてある記者が、
「大山鳴動して鼠(ねずみ)一匹ではないか」と言ったのだ。
つまり、「知事。騒いだわりに大した成果がなかったんじゃないですか」、と。
それに対し知事は、
「それは失礼ではないか。(中略)五輪がいかに持続可能であるべきかを追求した。
経費をさらに削っている。(中略)
『大きな黒い頭のネズミ』がいることが分かったじゃないですか」
と、反論した。
「黒い頭のネズミ」とは、身近にいる盗人のことをいう表現らしい。
ふーん。
勉強になる。
「大山鳴動して鼠一匹」と言われて、
とっさに「黒い頭のネズミ」で返したのは上手いなと思う。
変なダジャレや、つまらないヤジを飛ばす国会議員より、よっぽどスマートだ。
だけど、上手い返しが、本当に言いたかったことかどうかは、わからない。
ネズミという「お題」で、頭の中でネズミ、ネズミ・・・と考えて、
出てきたのが「頭の黒いネズミ」というワードだけだったという可能性もある。
ネズミ、ネズミ・・・、
「袋のネズミ」・・・、「窮鼠猫を噛む」・・・、
違うな・・・。
ネズミ小僧も鼠先輩も関係ないし・・・、
舞浜のネズミのことは、変に話題にしないほうがいいだろうし・・・、
あ、「頭の黒いネズミ」ってのがあるじゃない。
ちょうど利権に群がる人たちもいることだし。
そうやって思いついた切り返しは、もともと知事がいいたかったことじゃない可能性がある。
慣用句や成句は、比喩だ。
「大山鳴動して鼠一匹」も「頭の黒いネズミ」も、
その「ネズミ」の様子に似た状況をさして、言葉にするのだ。
本当に山が鳴動して、鼠が一匹出てきたわけではなくて、
そういう状況と似た状況ですね、と記者は言ったのだ。
それに、「頭の黒いネズミもいることがわかったじゃない」と返した知事は、
その時、頭の中に五輪の周りにいる盗人のような人たちを思い浮かべたのだろうが、
あの場で、「五輪周りには盗人がたくさんいるんだぞ」というメッセージを
カメラを通じて、どうしても皆に伝えたかったわけではないだろう。
あの一瞬の切り返しの間、知事は伝えたいことよりも、
慣用句で「ネズミ返し」することを第一に考えていたと思う。
比喩は「似た状況」であって「状況そのもの」を指す言葉ではないし、
その比喩を「返す」比喩は、さらに伝えたい「状況そのもの」からは遠ざかる。
四六時中なぞかけを考えている芸人やフリースタイルを磨いているラッパーならともかく、
政治家は即興でうまい返しをすることを得意とした職業ではない。
言うべきことと言うべきでないことがある仕事だ。
即興の比喩返しは、これきりでいい。
TVショウとしては面白いし、個人的には、違う記者が別の「ネズミ」の比喩で切り返して、
その切り返しに、知事がまた別の「ネズミ返し」で応酬してほしかったが、
それは政治ではなく、TVショウだ。
上手い切り返しは、常におまけであるべきで、全面に出るべきものではない。
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