「馬鹿と煙は高いところによく登る」という。
僕も高いところを見つけるとすぐに登りたくなるので、
煙の気持ちはよくわかる。
いいよね、高いとこ。
民俗学者の宮本常一は新しい町にやってくると、
まず、高台に登ってその土地の地形を把握していたというが、
全体を把握するためには、まず、高いところに昇るに限る。
馬鹿と煙が高いところに登りたがるのは、宮本常一同様、
高いところに登れば、全体を把握できたように気になるからで、
高校生が、なるべく後ろの席に座りたがるのと同じ。
軍事的に、為政者たちが下町ではなく、高台に住み、
天守閣から街を見下ろしてきたのも同じ。
誰かに見られるよりも、誰かを見るほうが優位に立てる。
そういう思いから、人は上へ上へとあがろうとする。
良さげな高級住宅街はいつも、「〇〇ヶ丘」みたいな”高そうな”名前で、
「〇〇ケ谷」のような、”低そうな”名前ではない。
高台に住めると想像しただけで、人はハッピーな気分になれるのだ。
みんなが憧れる高い土地は、地形的な高台でなくても、
とにかく、上に高ければ、問題ない。
マンションでも複合オフィスでも、高ければ高いほど、価値も高くなり、
1階より2階、2階より3階、
どの階よりも、最上階のペントハウスと、
上にあがればあがるほど、値段も高くなっていく。
なにせ、高い場所には蚊がこないし、
蟻もいないし、ゴキブリだってなかなか上がっていけない。
皆が高いところに住みたい理由もよくわかる。
ただ、高いところは、緊急時に弱い。
マンションの下の階で火事になれば、上は逃げ場を失うし、
地震が起これば、揺れに揺れる。
エレベーターが止まったら、何も運べないし、
年を取り始めたら、高いところほどきつくなってくる。
高いところは高いとこなりに、悪いところがある。
当時の日本の建物の中でも、うんと高いところに天守閣を設けた秀吉は、
大徳寺の山門に、千利休の像が設置された際、利休に切腹を命じた。
「俺を上から見下ろすな」
そういう”いちゃもん”をつけて殺すくらい、
秀吉は、自分を見下ろす人を嫌った。
自分より低いところにいるはずなのに、
自分を見上げない人に対して恐怖心を抱く。
人は高く昇れば昇るほど、恐怖がなっていくわけではないのだ。
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