中華料理店に入って見上げると、
頭上のメニューに「中華風サラダ」とある。
中華風サラダ?
ここは中華料理店なはずなので、
ここで出される料理は、すべて中華料理のはず。
ならば、それは「中華サラダ」であって、
「中華風サラダ」ではないのではと、
横に座っている仕事上の知り合いに言おうとしたけれど、
面倒くさいと思われそうなので、飲み込む。
中華風や和風の「風」には、「様式」という意味がある。
和風ハンバーグは和式(日本式)のハンバーグという意味であり、
もともと日本のものでないハンバーグを「和式」で調理しましたよという意味だ。
ならば、中華風サラダも、
サラダという舶来の食べ物を「中華式」で調理しましたよという意味なので、
「中華”風”サラダ」で問題ない。
しかし、「風」は、「様式」という意味の他に、
「っぽい」「に似た」という意味もある。
「すき焼き風肉豆腐」は、すき焼きではなく、
すき焼きっぽい肉豆腐のことだ。
「イケメン風ツーブロック」は、
イケメンのように見えるツーブロックであるし、
「学者風メガネ」は、学者がかけてそうなメガネのことだ。
学者風メガネは、もともと本物の学者がかけていたメガネを模したもので、
そのメガネをかけている人を見ると学者のイメージが頭に浮かぶメガネ、
「学者っぽく見えるメガネ」のことだ。
これは、「先輩風を吹かせる」という言葉があるように、
「風」に、「そぶり、様子」を表す意味があることによる。
「すき焼き風肉豆腐」は、
すき焼きに似せた、すき焼きのそぶり・様子をしている肉豆腐、
「学者風メガネ」は、学者がかけているメガネに似せた、
学者メガネのそぶり・様子をしているメガネのことだ。
このように「風」には「本物の様式という意味(和風建築など)」と、
「本物に似せたニセモノという意味(すき焼き風肉豆腐など)」の、
相反する二つの意味がある。
だから中華料理専門店で「中華風サラダ」と言われると、
一瞬、うっと詰まってしまう。
「中華風サラダ」って、中華様式の本格サラダのことなの、
それとも、中華っぽいドレッシングをかけただけの適当なサラダのことなの。
それはとても面倒な心の揺れなので、
「風」は今後、どちらかの意味に統一してほしいものだ。
「様式」という意味の和風を「和”式”(和式建築)」という表現にするか、
「そぶり」という意味の和風を、「和”系”(和系レストラン)」にするか。
「和”調”ハンバーグ」でもいいし、
「和”的”レストラン」でもいいな。
とにかく、なにかに変えてほしい。
そうしたら、僕は「イケメン系ツーブロック」に「学者調メガネ」をかけて
「きたなシュラン風中華料理屋」で「中華的サラダ」を頼むよ。