待ち合わせに遅刻した。
待ち合わせに遅刻するとわかった瞬間、
どういう言い訳をしようか考えてしまったことで、
「遅れる」という報告が遅れてしまい、
さらに怒られることになってしまった。
親しい人との待ち合わせにしろ、
会社や学校への出勤・通学にしろ、
遅れてしまった時には、それなりの言い訳を考えてしまう。
その言い訳によって、許してもらえる可能性だってあるし、
それによって、相手の怒りが静まる可能性もある。
英語では言い訳のことを「excuse」というが、
正統な理由のことも同じように「excuse」という。
「excuse」は、「いい意味」でも「悪い意味」でも使われる、
色のついていないフラットな言葉だ。
以前、アメリカの高校に通っていた時、
オフィスに行って、用紙に「excuse」を書くのが、遅刻をした時のルールだった。
その「excuse」が「言い訳」であれば「遅刻扱い」、
「正統な理由」と認められれば、「出席扱い」となる。
そうはいうものの、頭痛や腹痛などの体調不良はすべて「言い訳」であり、
「正統な理由」と認められるには、相当、正統な「excuse」が求められた。
ある朝、完全に寝坊してしまった僕は、急ぐことをあきらめ、
バス停へ向かう道すがら、
どうすれば正統な「excuse」がもらえるか、考えていた。
どう考えても一限目には間に合わないし、
ただの寝坊なので、正統な理由もない。
ただ、遅刻は数回重ねると欠席扱いになるので、できれば遅刻はしたくない。
なにか、いい「excuse」はないものか・・・。
そう思って歩いていると、ある店の貼り紙が目に入る。
「ネコ、探しています」
飼い猫が逃げてしまったらしく、
白い猫の写真とともに猫の特徴や飼い主の電話番号が記してある。
ふーん。ネコね・・・。
そうつぶやいて、バス停の方向に目をやると、
車道に停めてある車のタイヤの側に、横たわっている白猫が見える。
白猫がいる。
ん、白猫?
し、白猫!?
ゆっくり近づき、タイヤ横の白猫と貼り紙の写真を見比べる。
似てるようでもあり、似てないようでもある。
でも、でも・・・たぶん、似てる!
急いで貼り紙に書いている電話番号をメモし、猫を確認する。
「ちょ、そこ、動くなよ!」
白猫にそう言い残し、ダッシュで家へ戻って電話をかける。
「もしもし。お宅の飼い猫、見つけちゃったんですけど!?」
四限目が始まるベルがなった頃に、
僕はゆっくりと学校の入口をあけて、オフィスへ向かった。
オフィスのおばちゃんは、
「社長さん、もうすぐランチタイムよ」
と言い、「excuse」を書く用紙を僕に手渡した。
僕は、その、少し嫌味の混じった言葉に眉毛を上げて応じ、
用紙の「遅刻理由」の欄に、大きくこう書いた。
「遅刻理由:通学途中、迷子の猫を見つけ、飼い主に連絡していたため」
オフィスのおばちゃんは、その理由を読んで、僕の顔に視線を移すと、
「いいことしたわね!」と言い、
「正統な理由」の欄に、ササッとサインをした。
そう、僕はこの時すでに知っていたのだ。
アメリカが、こういうことに寛大な国だってことを。
こういうことを「正統な理由」だと認めてくれる国だってことをね!
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