おそロシア

ロシアがウクライナへの侵攻を画策している。
「恐(おそ)ロシア」である。
「ロシアが恐ろしい」というのは多くの人が感じることだろうが、「強硬手段に出る者」は、同時に「恐怖心を持つ者」でもある。
「おそロシア」には裏もある。

ロシアは、第二次世界大戦中、ドイツと凄惨な戦闘を繰り広げた。
その舞台がウクライナであり、「ウクライナが獲られた後、次は、本国」というのがロシア人(当時ソビエト人)の恐怖だった。
絶対に祖国を守りたいロシア人(当時ソビエト人)は、第二の都市・レニングラードをドイツに900日間包囲され、100万人とも言われる戦死者(多くが餓死者)を出しながらも耐え抜いた。
いわゆる「レニングラード包囲戦」である。
レニングラードが崩れれば、祖国がなくなる。
その恐怖心の記憶は、まだロシア人の中にある。
外国人はウクライナ侵攻と聞いて、「おそロシア」と言うかもしれないが、ロシア人にとっては「おそロシア」などではなく、「またウクライナからの侵攻か。怖(おそ)レニングラード包囲」なのである。
まぁ、それがロシア人にとっての怖れなのか、プーチン大統領にとっての怖れなのかは、判断しかねる。

それに加えて、ロシアは、レーニンらの社会主義者たちによって国を社会主義国にされた歴史がある。
20世紀の壮大なる思考実験である社会主義国家によって、第二次大戦が終わった後も多くの血が流された。
ロシア人は内部の敵とも戦わなければならない。
ロシア人の中には、「怖(おそ)レーニン」の記憶もまだ色濃く残っているのである。

1991年、ソビエト連邦が崩壊し、「怖レーニン」の恐怖が国内から去った後、ロシアはアメリカ・イギリスを中心とした国際体制により、性急な市場経済化を進められる。
その急激な転換により、ロシア経済は大きな傷痕を残し、国民の生活は困窮を極めた。
今回、冬季オリンピックのフィギュアスケートがドーピング問題に揺れたが、その背景にはロシア国内にはびこる経済格差がある。
ロシア人が困窮から抜け出せる道は、そう多くは存在しない。
その道をスポーツに見出す大人は、どんな手でも使うだろう。
その困窮状態を作った犯人は、NATOの中心に座するアメリカ、イギリスなどの旧連合国であると考えるロシア人も少なくはないだろう。
ロシア人は、旧連合国を「怖レーニン」から救ってくれた英雄だとは思っていない。
アメリカ・イギリスは、レーニン同様、「怖連合国」なのだ。

今回、ロシアがウクライナを侵攻しようと画策しているのは、ウクライナのNATO加盟がきっかけである。
つまりは、ウクライナがアメリカ・イギリスの仲間になるかどうかである。
ロシア人にとって、これほど怖いことはないかもしれない。
彼らの「おそロシア」的な行動の裏には、「怖レニングラード包囲」「怖レーニン」「怖連合国」がある。
ただ、その構図を「西側」から見ると、ウクライナを無理矢理にでもNATOの仲間に入れたいアメリカ・イギリスの本音がある。
彼らはなぜ、それほどまでにウクライナを仲間に入れたがるのか。
そこには、彼らがロシアに抱く恐怖心がある。
そこには、歴史が証明してきた「おそロシア」の姿があるのだ。
ロシアは歴史上、怖れを装いつつ、ルール無用の行動に出てきた。
ロシアはロシア以外の人たちにとって長いあいだ「おそロシア」であったのだ。
「対立」にはどちらにも理が存在するが、攻撃の背後には、必ず怖れがある。
人が過去からのみ学ぶ限り、この連鎖は止まらないのかもしれない。

 

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