おしっこを我慢して、トイレに駆け込む時によく思い出すフレーズがある。
「逮捕する時が、一番、危ないんだ」
『踊る大捜査線』でいかりや長介演じる和久刑事が言っていたセリフである。
便器を前にして、ようやくおしっこが出せると思った瞬間、尿意は最大値に達する。
和久刑事の言葉からするに、それは、望んでいたことが成就すると思った瞬間、焦りや緩みは最も出やすくなるということなのだろう。
焦りや緩みと言えば、元水泳選手の北島康介が現役の際、意識していたことを思い出す。
北島康介は、泳ぎきってゴールし、壁にタッチした後すぐに、記録が表示される電光掲示板を見るということをルーティンにしていたらしい。
これは、壁にタッチすることがゴールと考えると、無意識にゴール手前でスピードを緩めてしまうため、壁にタッチして、電光表示を見ることまでがレースと考えることで、最後までスピードを落とさなくなるのだという。
人はゴールラインを想定すると、必ず、その前で失速するようだ。
確かに、大学入試の面接などでも、必ず受かる子というのは、ゴールラインを面接のその先に設定している子が多い。
面接で「受かるか受からないか」ギリギリだと思って面接を受けるような子は、面接官の質問に自信なさげに答えたり、逆に、無理して「やる気」を見せつけようとしたりする。
しかし、合格するのが当然だと思っている子は、入学した後でやることに目が向いているため、気負わずに受け答えができ、そのことが好印象につながる。
例えば、面接資料として、高校時代に取り組んだ課題研究や自由課題を提出するのだが、それに関して、面接官が批判したり、コメントをつけたりすることがある。
「〇〇に関してだけど、最近は、〇〇という教授が〇〇の観点から批評をしていて、君の研究は一方的な見方に思えるんだけど、どうかな?」
そう問い詰められると、ほとんどの子が「うっ」と詰まる。
中には、稀に、自分の研究の正当性を主張するような子もいるが、そうではなく、確実に合格する子は、
「あのー、その批評をしている教授の名前と著書名を、もう一回教えてもらえますか?」と、
ペンと紙をポケットから取り出す。
その姿勢だけで、面接に受かるための課題研究ではなく、本当に興味があって取り組んだ課題研究なのだということが伝わる。
視線が研究自体に向いているから、自分へのいじわるな攻撃にとらわれず、有用な情報を得たいという欲が先に出る。
そんな姿勢の人を落とす面接官はまずいない。
これをテクニックとして面接で使うには相当の演技力がいるので、そういう意識を普段から持っておくしかないな、と生徒には伝える。
その意味で、ゴールテープは、行きたい場所のさらに向こうに張っておいたほうがいい。
行きたい場所に張ってしまうと、必ずその直前でスピードは落ちてしまう。