日本人にないマナーの一つに「扉のノック」がある。
コン、コン。
日本はノックの文化がないので、日本人の多くは、「コン、コン」といわれれば、「ノック」ではなく「キツネ」を思い浮かべるかもしれないが、欧米では「コン、コン」といえば「ノック」である。
(うそです。扉を叩く擬音は、「Knock,Knock」です)
マナーに馴染みがないと、やり方を間違ってしまうが、扉のノックにおける日本人の間違いは、その音量。
もしくはその音量による圧である。
扉を叩く「コン、コン」という擬音は、マナーが根付いてない日本人が使う擬音だが、
本場の音は、「コン、コン」ではなく、「ゴン、ゴン、ゴン。」である。
怒ってんのかな、ってか、扉壊れないのかなと思うくらい、欧米人は扉を、強く、意志的に、早く、叩く。
その回数は国や文化によって違うかもしれないが、どの国であっても、日本人みたく「コン、コン」なんて、軟弱に叩いた日には、扉の内側の相手が気づかないふりをする可能性すらある。
それは、例えば、浅草にやってきた欧米人がそば屋でそばを「チュルチュル」吸ってみるようなもので、それは江戸っ子からすれば、軟弱な吸い方であり、そばは「ずるずるずるっ」と吸うものであるので、「チュルチュル」なんてやった日にゃ、いつまで待ってても、お店の奥から蕎麦湯がやってこない恐れがある。
それほど、本場とそれ以外とでは、音が異なっている。
扉のノックの仕方が未だに馴染んでない日本人ではあるが、じゃあ、扉がやってくる前の仕切りに対する振る舞い、つまり、近代になって、扉が日本に入ってくる以前の和風建築における振る舞いがきっちり身についているかといわれると、それもまったく身についていない。
日本人は、ふすまや障子における「ノック」の正しいやり方をとうに忘れてしまっている。
当然、ふすまや障子は叩くわけにはいかないのだが、ふすまや障子を開ける際にも、扉のノックと同じ所作がある。
それは、最初に「すっ」と一寸だけ開け、その後、「ずずず」っと、最後まで開けるという二段階方式である。
つまり、最初の「一寸開け」が、扉でいうところのノックに相当する。
欧米の「ゴン、ゴン、ゴン。」が、我が国では「すっ」になる。
しかし、西洋で、扉をノックするということは、ノックを聞いた部屋の内側にいる人の応答を伺うということなのだが、ふすまを一寸開ける作業では、相手の応答を挟む隙もなく、すぐに二段階目に入り、「ずずず」っと、内側の人の意思を確認せずに、相手の領域に侵入していく。
そこに、相手の意思を尊重する気配はない。
それはおそらく日本で、「tea or coffee?」と聞かれることなく、とりあえずの緑茶が運ばれてきたり、旅館で部屋に仲居さんが勝手に部屋に入ってきて布団を敷き始めたりするのと同じで、ジャパニーズおもてなしは、「積極的おせっかい」だからであろう。
「あんた、これ、食べとき」と、食べきれない量の野菜をもたせてくるおばちゃんの精神である。
欧米では、ノックをして、相手の返答を待たなければいけないので、扉は、これでもかというくらい強く叩く必要がある。
日本人は、ビビらず、「コン、コン」ではなく「ゴン、ゴン、ゴン」やってほしい。
その際、手の甲を使って「コン、コン」やるのではなく、欧米人を真似て、拳の手の平側で、猫パンチの要領で、「ゴン、ゴン、ゴン」である。
欧米の扉は分厚いので、壊れるくらいの勢いでやっても壊れることはない。