信頼の回路

今回のコロナ禍において、日本の政権は支持率を落としているようだが、
世界的には支持率を上げる政権の方が多い。
有事は与党に有利に働くもので、
先日も、韓国の総選挙で与党が圧勝したように、
実際の舵取りが必要な時期に批判しかできない野党は、どうしても分が悪い。

世界で評価をあげた政治家はたくさんいるが、
それはウィルス対策がうまくいっている国の政治家だけというわけではない。
アメリカ・ニューヨーク州のクオモ知事は、
同州で多大な犠牲が出ているにもかかわらず、高い支持を集めている。
トランプ大統領の支持率がある調査で「微増」と伝えられるのに比べると、
絶大な支持といえる。
クオモ知事の会見は、常にデータにもとづいており、
グラフを多用した説明はわかりやすく、
都市封鎖で苦しい立場にある州民に少なからず安心感を与えているという。

同じように大きな犠牲者を出しているイタリアのコンテ首相や、
イギリスのジョンソン首相も支持率を上げている。
政治とは「結果責任」とも言われるが、
感染症という、政治が事後対処しかできない現象に関しては、
犠牲者の多さを政治に責任転嫁できないことを皆、承知しているのかもしれない。
政治にできることは、感染症がきっかけで人災が起こらないよう、
適切な社会的・経済的対策を取ることだけなのだろう。

イタリアやイギリスの半面、
感染症対策がうまくいった国で支持率を上げたのが、
台湾の蔡英文政権だ。
その要因は初期段階から、
ITによる迅速な対応をしたことにあると言われている。
その対策を担ったのは、デジタル担当政務委員であるオードリー・タン氏で、
天才プログラマーとも呼ばれる彼が率いるチームは、
国内の薬局にあるマスク在庫数をデータ上でシェアし、
今、マスクがどこにどれだけあるかを
国民がリアルタイムで検索できるシステムを作り、国民の不安を解消した。

また、不眠不休で現場指揮に当たる保健当局のトップ(厚生労働大臣に当たる)の
陳時中氏も国民から絶大な支持を受け、「鉄人大臣」と呼ばれている。
彼は1月から毎日、記者会見を開いて情報を開示し、
専門的で具体的な問題も含めて、すべての質問に真摯に答えている。
時にユーモラスに質問に答え、時にWHOに対して毅然とした態度で応じる姿は、
もともと歯科医だったこともあいまって、
かかりつけ医のような安心感を国民に与えているという。

有事には「不信」が多大なコストを招くので、
できるかぎり、「信頼」をベースに関係をつなぐことが
事態を収める最良の方法である。
為政者に対して不信感があれば、
「外に出ずに、家にいてください」と言われても、
こっそり夜のキャバクラに顔をだしたり、
他県のパチンコ屋に遠征にでかけることになってしまう。
ウィルスは、そうした「こっそり」や「自分だけは」も見逃さないので、
信頼のなさが、結果的には大きなコストにつながってしまう。

いまのところ世界で信頼を勝ち得ている政治家たちは、
みなその信頼をオープンネス(開放性、率直さ)によって勝ち得ているように見える。
情報やデータを包み隠さず開示することで、ありのままの現況を国民に伝えること。
どのような考えと分析をもとに対策を進めているかを、皆に実直に伝えること。
1つ目は数字による情報開示であり、
2つ目は言葉による心情の開示である。
どちらも軽視してしまうと、不信を招いてしまう。
数字、データによる情報開示を怠ると、
すぐに情報が取得・拡散できるネット・SNS時代には、政権の命取りになってしまう。
また、有事にもかかわらず、平時と同じような、
当たり障りのない言葉で国民に語りかけていると、
為政者が腹を決めずに事にあたっていることがバレてしまうので、
これも命取りになりかねない。

平時における政治的施策では、
誰かを優遇し、他の誰かを冷遇することができるので、
ある企業や業界を優遇したり、一つの州や地域を優遇したり、
あるマスコミを優遇したり、ある層や出身階級を優遇することができる。
しかし、有事の、特に感染症蔓延のような事態では、
国民全員の足並みを揃えさせなければならない。
平時は、ウォールストリートの金融企業にだけお金をつぎ込んでおけば、
あとはトリクルダウンで、田舎町のウォールマートに行く輩にも
恩恵が回るだろうと考えることができるが(正しいかどうかは別として)、
有事においては、ウォールストリートの金融マンもウォールマートの客も、
同様に家にいてもらうことが必要なのだ。
そのためには、為政者自身が腹を決めて取り組んでいることや、
不都合なデータを腹の中に隠していないことを、
(嘘だとしても)国民に信じてもらわなければならない。
トランプ大統領の支持が伸びないのは、
彼の一番の関心が秋の大統領選挙なのだと皆に思われているからだろうし、
日本の政権の支持率が落ちているのも、同じような理由からだろう。

日本の政権もアメリカの政権も、
いまのところ、国民からの支持の取り付けに失敗しているが、
有事には、財政出動や大胆な政策が超法規的にできるため、
支持を集めるのは容易な時期とも言える。
感染症対策はどの国も、国単位、州単位で行われているが、
どこまでの対策を、国政・行政がやるべきかは考えどころである。
特に、今は危機の入り口に入ったばかりで、
今後、ウィルスとは、長い付き合いが始まる。
今後、リーダーシップを期待するのは、政治だけに限定する必要はない。

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