はみがき

「歯はみがいてはいけない(講談社)」という本が売れている。
5万部を突破したらしい。
買っても読んでもいないので、内容はわからないが、
想像するに、「歯磨きにはあまり意味がない」という趣旨の本だと思う。
多分、「歯磨きよりもやるべきことがある」という趣旨なんだろうと想像する。

僕らは毎日(人によっては数日に一回)、歯磨きをしているが、
いつまでたっても、人は、手動で、歯を磨いている。
身の回りのことはなんでも機械化したがる人間が、
歯磨きはだけはあいも変わらず、自分の手を動かしているのは、不思議だ。
電動歯ブラシという選択肢もあるのに、
手で磨き続ける人がこんなにも多いのは、
多分、手動の方が、適度にボーっとできて、
考えごとができるからなのだろうと思う。

考えるのに適している場所を、俗に、
三上=馬上、枕上、厠上(ばじょう、ちんじょう、しじょう)という。
移動している時、眠りにつく時、トイレにいる時。
いいアイデアが思いつくのは、
だいたいこの3つのシチュエーションだと、
宋の時代の中国人、欧陽脩(おうようしゅう)さんは言った。
アイデアを思いついたり、考えごとをするのは、
移動中だったり、うんこ中だったり、
”ながら”の方が良いのだと。
「何かを考えよう」と意気込む時よりも、
なにか他に目的がある時の空白時間に、人はいい考えを思いつく。
移動先に向かうまでの時間だったり、
眠りにつくまでの時間だったり。
それは、多分、歯磨きも同じことで、
歯を磨いている間の、
あの、歯を磨くしかない時間に、
僕らは、ボーっとしながら、なにかを考えているのだ。
そして、その時、いい考えを思いつくために必要なのが、
ちょっとだけ体が揺れていること。
移動中、馬の鞍の上で、体が上下にトントン揺れていたり、
電車の中で、ガタンゴトン、体が横に揺れているような、
適度な揺れが、いい考えを生むのだ。
その揺れは、歯磨きの場合、
電動よりも手動のほうがいい。
自分の手をシャコシャコ動かす方が、
電動歯ブラシを歯に当てるよりも、
馬の上で感じる”揺れ”に近いのだ(馬上が断然、揺れるけどね!)。
歯磨きの時間が歯を磨くためだけにあるわけじゃないことを知らない電動歯ブラシ会社は、
歯ブラシの振動数や回転数の多さを売りにして商品を売ろうとしているが、
大事なのは、歯ブラシではなく、体の方が、揺れること。
歯ブラシだけ揺らしても、しょうがないのだ。