親切とおせっかい

  

どこまでが親切でどこからがおせっかいなのかは、
「街」によっても、基準が違う。
僕は田舎に生まれ育ったので、
東京にいる時も、田舎にいる感覚で、
一人で遊んでいる子どもと遊んでやっていたら、
保護者がやってきて、性犯罪者を見るような目つきでこちらを見ながら、
子どもを連れ去っていったこともあったし、
京都にいた時は、田舎にいる感覚で、
券売機の使い方がわかっていないおばあちゃんの千円札を機械に入れてあげようとしたら、
詐欺師を見るような目つきで睨まれたこともあった。
適切な「親切ライン」を見極めるのはなかなか難しい。

都会では、田舎のような感覚で人と接してはいけません。
そう自分に言い聞かせて過ごしていた20代の頃、
当時付き合っていた子と下北沢の家へ自転車で帰っていると、
暗がりの交差点に、高校生の女の子が、一人、しゃがみこんでいた。

僕たちは家路に急いでいたので、横目でその子を見ながらも、
シャッと通り過ぎてしまったが、
通り過ぎた後で時計を見ると、すでに夜の11時を回っており、
やはりどうも気になったので、
「戻っていい?」と彼女に言って、二人で高校生の元に戻った。
すると、案の定、その高校生は、
外れた自転車のチェーンをはめれないで、立ち往生していた。
「自転車のチェーン外れたの?」と、
夜間のくらがりなので、優しく声をかけた後で、
ちゃちゃっと、自転車のチェーンをはめてあげる。
チェーンなんて、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ、ではまる。
高校生は僕らに礼を言い、
僕らは、頭を下げる高校生を見送ってから、
また、自転車で、家路に向かい始めた。

ちょっと手にサビがついてしまったけど、
やっぱり見過ごさず、戻ってよかったな。
そう思いながらペダルをこいでいると、
なんだか、彼女の機嫌が明らかによろしくないのを感じる。
あれ、なんかまずいことしたっけ?
あきらかに不服そうな顔。
もしかして、女子高生に親切にしたことにヤキモチ焼いてる?
いや、そんな、ばかな・・・。
「あのぉ・・・怒ってるんですかね・・・?」
探るように質問してみると、
「昨日、私の自転車のサドルが右に曲がってるって言った時、
 なんもしてくれなかったのにね・・・」
え。えぇー・・・・。
思ってもないところから急に煙が出てきた・・・。
サドル?
そんな話、聞いた記憶すらない。
というか、サドルの話とさっきの高校生のことは、
なんの関係もないじゃない・・・。

僕は自転車で家に着くと、手を洗うより先に納戸を開いて、
錆止めスプレー「KURE556」を取り出した。
「さぁ、サドルは右に曲がってるんだったかな、
 それとも、左だったかな?」
人に親切心で声をかけても「おせっかい」と言われてしまうことはあるが、
今日の親切は「おせっかい」でもなかったのに、
全然関係ないところからダメ出しが入り、
僕の「親切心」は着地点を見失ってしまった。
親切とは難しい。
夜遅くに、他人のチェーンをはめてあげても、
その前日に、恋人のサドルを直してないというだけで、
その親切は親切ではなくなる。
それどころか、その夜の会話が、
「本当に、日頃から、大事にしなきゃいけない人は誰なのか」
にまで及んでしまうのだ。

適切な「親切ライン」を見極めるのはなかなか難しい。
どのラインとどのラインの隙間に地雷が埋められているか、
わかったもんじゃない。