1/9 ミトコンドリア診断

人類の祖先はアフリカにいたらしいが、
そこからどういうルートを通って日本列島へやってきたのかは、
人によって違うらしい。
シベリアから降りてきた人も、
朝鮮半島から渡ってきた人も、
南方から登ってきた人もいる。
しかし、それが今、なんと、唾液からわかるのだという。
なんという時代!

DeNAライフサイエンスが運営する「MYCODE」は、
人間の細胞内のミトコンドリアから、
祖先のグループを特定するサービスを提供している。
ミトコンドリアは、祖母→母→自分と、
母系に代々受け継がれるため、
自分の母系の祖先がどこからやってきたのかを遡ることができるのだという。
「MYCODE」に唾液を送ると、
10ほどのグループの中から、
自分がどのグループで、どのルートを通って日本に渡ってきたかを教えてくれる。
なんだかロマンがある話だ。

ちゃんとした家には「家系図」があるというが、
イエ制度を持っていた日本の「家系図」が示すのは、
遺伝子ではなく、イエの正当性、連続性だ。
大事なのは、血のつながりではなく、
イエがつながっていることで、
そのためには、養子をとっても、妾の子を跡取りにしても、何の問題もない。
「うちの祖先は、武士だった」とか
「うちは、公家だった」なんていう話も聞くが、
父方が武士でも、母方が武士でなければ、
その時点で、「武士率」は1/2だ。
三代遡って、父方の曽祖父が武士だったとしても、
父方の曾祖母と、祖母と、祖母方の曾祖父母と、母と、母方の祖父母と、曾祖父母は、
みんな、武士ではない。
三代遡るだけでも、武士率は3/14だ。
もちろん、イエ制度は「家風」を生み、
「育ち」においては、多大な影響を及ぼすので、
遺伝子ではなくイエが、人格の大部分を形成することはあるが、
「武士の子孫」という言い方は、
ひとつの物語であることは、覚えておきたい。

その意味で、「ミトコンドリア診断」も、物語の一つだ。
母方だけの診断しかできないし、
「10のグループ」というのも、
「今のところ」というカッコつきの説明に聞こえる。
例えば、「北方」から日本に渡って来た女性が、
「南方」から来た男性と結ばれて子どもが生まれ、
その子どもの配偶者が、現代に至るまでことごとく、「南方」系だったとしても、
「ミトコンドリア診断」は「北方」との結果を出す。
自分に、「南方」系の生活習慣や行動規範や癖が色濃く受け継がれていたとしても、
ミトコンドリアは、「北方」からの物語しか与えてくれない。
「ミトコンドリア診断」も、ひとつの物語にすぎないのだ。

ひとつの物語にすぎないのだが、
物語としては、まあまあ面白い物語だ。
婚活パーティーで血液型の隣に書いたりしておけば、
話の種にはなる。
出身地や血液型の一致でも、一喜一憂する男女はいるのだから、
祖先が同じグループなんてわかったら、
「もしかして、あの時、私たちの祖先、南方からの同じ船にいた!?」
なんて、勝手に運命を感じて、
勢いでゴールインする人たちが増えるかもしれない。
政府は、晩婚化対策に、
「ミトコンドリア診断」、是非、利用してはいかがでしょうか。