『機械との競争』という本がある。
IT技術の発達スピードに人間がついていけず、
雇用をどんどん機械に奪われていることを主張した良い本だ。
機械は単純な労働力としてではなく、
知的分野においても人間より高い能力を示すため、
ホワイトカラーの管理職が不必要になるなど、
様々な分野で今後も、人間は機械と競争をしていかなければ
ならないということを鮮明に描いている。
その本を読んでいたのは夏で、ゴキブリがよく家に来ていた。
ゴキブリは素早い。
「ゴキブリを1匹見たら、100匹はいると思え」という
言葉があるくらいだから、素早く駆除しなければならない。
(あれ、それはねずみだっけか)
ゴキブリを叩くのに『機械との競争』はちょうどよかった。
適度に厚いし、重いし、持ちやすい。
すぐさま手に取り、ゴキブリをはたく。
表紙に茶色いシミが付く。
なかなか凝った装丁だったのに、残念だ。申し訳ない。
するとまた別の日、別のごきぶりが登場する。
ゴキブリは素早い。
何で叩こうかとか、殺して液体が出るのは嫌だなとか、
躊躇してる間に本棚の隙間に逃げ込んでしまう。
考える暇なく、手元にある表紙の汚れた『機械との競争』で
一気に叩き潰す。
危うく、テレビの裏に逃げられるところだった。
表紙にまたひとつ、嫌なシミが増える。
そんな具合で、ゴキブリが出るたびに
『機械との競争』が役に立った。
(あの部屋は何であんなにゴキブリがいたのだろう)
つまらない本を揶揄する言い方で、
「いい鍋敷きでした」って言い方があるけど、
『機械との競争』は、いいゴキブリ叩きだった。
本の内容ももちろんよかった。
今は、表紙を捨てた状態で、本棚の奥の方に置いてあるが、
たまにタイトルが目に入るたびに、
あの夏の「ゴキブリとの競争」を思い出す。