3/30 いつも裸足の先生(2)

前回からのつづき)
その先生は普段から裸足で過ごすくらいの強者なので、
掃除に対してもめっぽう厳しかった。
普段の掃除はぞうきんで水拭きするのだが、
年に一度大掃除があり、その日だけは、
洗剤をつけて教室の隅々まできれいに磨いた。
僕らは、いつも使えない洗剤を使える喜びで、
必要以上の洗剤をプシュプシュぞうきんにふきかけて、
棚や窓を拭いた。
拭いたというより、撫でていた。
すると、裸足の先生はざらざらした声で怒鳴ってくる。
「お前どん(達)、ちゃんと力入れてこすれ!
 洗剤が汚れ落とすわけじゃなかとぞ!」
心の中で「うっさいなぁ」と舌打ちしたが、
その先生のことはずっと記憶の中に残っていた。

以前、仕事で後輩がミスをしたというので、
お客さんのところに一緒に謝りに行ったことがある。
ミスといっても大したことなかったのだが、
「ミスした時が、信用を得るチャンス」とばかりに
ミスに比べて大げさなくらいの手土産を持って行った。
想像通りお客さんは喜んでくれ、
ミスのことで、怒りを長く引きずったりはされなかった。
その態度に安堵したのか、ミスして迷惑をかけたはずの
後輩の顔からは申し訳なさが消えていた。
こいつ、手土産にかまけて、謝る気持ちを忘れてやがる。
「ちゃんと謝れ!
 手土産が信頼を生むわけじゃないんだぞ!」
そう、後で言ってやろうと思った。

人は洗剤があると、それで汚れが落ちると思いがちだ。
しかし、汚れは、こすらないと落ちない。
洗剤の力は強大だが、汚れを落とすのは人の力だ。
裸足の先生は多分、
その時怒鳴ったことすら覚えてないだろうが、
(そもそもまだご存命なのかすら不明だが、)
言われたほうは、変なことを覚えていたりする。
その時は舌打ちするくらいしかできないガキだったが、
20年たった後に活きてくる教えってのもある。
教育ってのは、なかなか複雑だ。