3/5 坊っちゃん(1)



軽井沢のリゾート施設でアルバイトをしていたこ
とがある。
自然の中にある会員制の宿泊施設で、お金持ちの人たちが
家族連れでやってくる。
ただ、スキー場から遠いためなのか、
1月のスキーシーズンにしては閑散としていた。
僕と同じく首都圏から集められたバイト君たちが
朝食バイキングのホールに集められたが、ただでさえ
宿泊客が少ないのに、
朝6時半に朝食食べに降りてくる客
なんて更に少なく、
僕らは、暇を持て余していた。

とりあえず、目の前にあるナイフやフォークなどの
カトラリーをナプキンで磨いていく。
左に揃えてあるカテラリーを拭いて、右に並べ、
時計を見上げてほとんど時間が経過していないことを
確認したら、また、そのカトラリーを拭いて、左に並べる。
人間、仕事をしに来てるのに、やることが何もないと
イライラが募る。
マンガ「魔法陣ぐるぐる」に出てくるキタキタ親父
(裸に腰ミノをつけて踊るオヤジ)も、一日中ひたすら
クルクルと回転するだけのバーを押せと悪の組織に命令され、
その作業の無意味さに愕然としていた。

人間は、意味のある作業をしたいものだ。

カトラリーをこれ以上拭いても仕方ないので、頭の中で
マンガ「ドカベン」を実写映画化した場合のキャストを
考えながら歩いていると、ある3人家族が目に止まった。
そこは会員制のホテルなのでそこそこお金のある人達が
来ているのだけど、どれだけ資産を持っていても、
身のこなしから
金持ちだなと思わせる人は、ほとんどいない。
ただその
3人家族は、一目見て、本物の「いいとこ」の
香りがした。いかんせん
、坊っちゃんの面構えが違う。

品が良くて柔和な顔立ち。余裕と賢さを漂わせる表情。
「おはようございます」と声をかけるスタッフに、礼儀は
わきまえながらも子どもらしさを残した、はにかんだ挨拶。
これは、本物のぼっちゃんのお出ましだ。
僕は、ドカベンのキャスティング作業を中断して、
ぼっちゃんの方に向かっていった。


つづく