4/23 満塁男は必ず打つ


駒田は、満塁に滅法強かった。

駒田というのは、ジャイアンツにいた左バッターで、

生え抜きながら、FA制度で巨人から他球団へ移籍した珍しい選手でもある。
駒田は、プロ初打席を満塁の場面で迎え、
見事ホームランを打った。
その日から、駒田は満塁に強いとファンは思ったし、
本人もそう思ったろう。
初打席以降も、満塁で駒田に打席が回ると、
皆が期待したし、大抵その期待に駒田は答えた。
プロに入る前から満塁に強かったかどうかは知らないが、
多分そうじゃないんじゃないか、と推測する。

たまたまプロ初打席が満塁で、
たまたま打った打球がスタンドに入った。
その巡り合わせが、本人も含めたすべての人をその気にさせた。
確かカモメのジョナサンを書いたリチャードバッグが、
登場人物である「救世主」にこう言わせていた。
「君が自由だと思えばもう君は自由なんだ、リチャード」

初打席で満塁ホームランを放って以降、
駒田は満塁では必ず打てると思っただろう。
「君が打てると思えばもう君は打てるんだ、駒田」
こころの中の「救世主」はそっとささやく。
現実は大抵、駒田以外の人が「打てないかも」と思ったり、

相手が「打たせない」と思うので、打てないこともあるが
満塁で駒田に回った時は、巨人ファンも相手ファンも
相手の監督も相手のピッチャーも、
「こりゃ、駒田打つな」と思った(ような顔をしていた)。
皆ができると思えば、
あとは映画のように監督の「よーい」から
「スタート」がかかって、カチンコがなれば、
台本に沿って、ピッチャーは投げ、駒田は打ち、
ボールはスタンドへ吸い込まれていく。
駒田劇場の開幕だ。
「こりゃ、こいつ打つな」と皆が思えば必ず打つ。
世界は、そういうふうにできている。