8/2 お前だってオケラだって

「こころに太陽をもて」で始まる、
ドイツの詩人・フライシュレンという人の詩を最近読んだが、
やなせたかしの「手のひらを太陽に」を思い出した。

ご存知、アンパンマンの生みの親 ・やなせさんは、
漫画家としてのヒット作に恵まれず、
アンパンマンを世に送り出したのは、還暦を過ぎてからだった。

売れない時代を経て生まれたアンパンマンは、
自分の顔を食べさせるという自己犠牲的な正義のヒーローだった。
やなせさんは戦争中、
自国の正義を信じて疑わなかった
軍国青年だったために、
戦後の価値観の転換に戸惑ったという。

そして、時を経て、腹が減っている人に自分の顔を食わせるヒーロー
という、世界のどこでも通用する「正義のヒーロー」を生み出した。
戦争を経験した世代には、この手の確固たる切実さがある。
ダイエーの創設者・中内功も、食い物があることが善だと信じていたし、
経営の神様・松下幸之助も、電化製品を皆が水のように使える社会を良しとしていた。

食うものがあることがまずは大事。
その確固たる信念があったやなせさんだからこそ、
アンパンマンのオープニングテーマの中で、
「愛と勇気だけが友達だ」と、
どストレートのメッセージを投げかけられたのだ。
そして、動揺「手のひらを太陽に」の中でも、
「みんなみんな生きているんだ」
「友達なんだ!」と。
ただ、どこで読んだか忘れてしまったが、
やなせさんが、奥さんとなる女性との出会い、逢瀬を描いた文章は、
信じられないくらい、熱情的で官能的だった。
土砂降りの中、駅で、ひと目もはばからず恋人に熱い唇を重ねた、と、
あの日の出来事を熱く書く、やなせさんの文章には、
確かに「真っ赤に流れる、赤い血潮」が流れていた。

「お腹が空いているのかい?だったら僕の顔を食べなよ」
そんな、現実で言われたら背中がゾッとするようなセリフが言えるのは、
本当に切実性のあるひもじさを知っている人だけだろう。
モノが溢れた今の時代には、自分の顔を食べさせるような、
自己犠牲的なヒーローは、生まれないんだろうな。