9/13 結ばれた紐

新海誠監督アニメ「君の名は」が大盛況だ。
どんどん興行収入が伸びているので色んなメディアで特集され、
また思い出してしまった。

作中で、「紐」はひとつのキーアイテムになっていた。
主人公の女の子は、土地の祭祀を司る家に生まれた子で、
祭祀に必要な組紐の作り方を、祖母から受け継いでいる。

主人公の祖母は、
「糸をつなげることもムスビ、人をつなげることもムスビ」と言う。
紐は糸を撚り合わせて作る。
その糸も元は、植物や動物が生み出したものだ。
その糸が結ばれて紐になり、その紐がまた、人を結ぶ。
取るに足りなかったか細い糸は、時空を超えて人を結び、
劇中でも、主人公のふたりを結んでいく。

話は飛ぶが、歴史上、そんな「紐」で伝説を残した英雄がいる。
マケドニア王アレクサンドロス3世。
「ゴルディアスの結び目」の名で知られるこの伝説は、
神の託宣通り、牛車に乗ってやってきた男・ゴルディアスが
王になったことに端を発する。
王になったゴルディアスは、乗ってきた牛車を神に捧げ、
誰も見たこともないような堅い結び方で紐を柱に結び、予言する。
「この紐を解いた者が、アジアの王になるだろう」
その予言が残されて数百年、
腕に覚えの強者どもが次々に紐を解こうと試してみるが、誰も解けない。
そして、ついに、歴史上の主役の登場。
かの地に着いたアレクサンドロス3世は、これまでの男たちと同様、
どうにか紐を解こうとするがどうにも解けない。
そして、腕の力で紐が解けないと悟るや否や、

持っていた剣で、その紐を一刀両断してしまう。

周りで見守っていた群衆は思ったことだろう。
「それ、紐、解いてへんやん!」

そんな周りからのツッコミを意に介さず、
見事、紐をほどいた(斬った)
アレキサンドロスは、
予言通り、後に、アジアの王となる。

この話から「ゴルディアスの結び目」は、
「難問を大胆な方法で解決するTo Cut The Gordian Knot )」
という故事として現在に伝わっている。

さすが稀代の哲学者・ディオゲネスを敬愛した英雄はやり口が他の人とは違うが、
児童文学作者でもあったエーリッヒ・ケストナーは、
このアレクサンドロスの逸話についてこう書いていた。
「ものを大切にしていた自分の母親がこの場にいたら、
絶対アレクサンドロスを怒鳴っていただろう」と。
『紐を切ってはいけないよ!
 紐はいつだって、役に立つからね!』

そう、紐はいつだって役に立つ。
切ってしまえば紐はほどけるが、もう紐としては使えない。
アレクサンドロスの家は、アリストテレスを家庭教師に招くくらいの金持ちだったから、
紐の大切さを知らなかったのだろう。
紐は日常生活の中で、けっこう役に立つ。

でも、紐を剣でぶったぎったアレクサンドロス3世だから
あんな広い世界を治められたのだろう。
ほとんどの庶民は、他人との絡まった紐をほぐしているうちに
人生が終わってしまう。
数百年間誰も考えなかった方法で紐を切ろうとしない限り、
あの紐はほどけなかった。
ルール違反だろうがなんだろうが、
紐をほどいたアレキサンドロスは、不世出の男だったのだ。

でも、そんな「ルール無用のミラクルC」は数百年に一度にしてほしい。
皆がルールを無視して刀を持ちだしたら、
それはただの、野蛮な世界だ。