アリが家の中を這っている。
ここ最近、東京にいたり、アパートの三階に住んだりしていたので、
家でアリに出くわすことがなかった。
久しぶりで、なんだか懐かしい。
まったく追い払う気にならない。
「どこ向かってんの?」
そう尋ねてみるが、アリはなにも答えない。
アリは長い隊をなして、台所の何かを目掛けて進んでいる。
ああ、昨日食べたヨーグルトの容器だ。
明治のブルガリア。
低糖だが、甘いヨーグルト。
西日本のアリは小さく、あまり列にならない。
”各々で”、ブルガリアに向かっている。
アリってのは、子どものようだ。
甘いものをちょっと出しておくと、ワッと群がってくる。
単純なやつら。
でも、人間の子どもと違うのは、人工甘味料に関心を示さないところ。
アリは、天然の甘味料と人口の甘味料の違いがわかるのだ。
アリは、アスパルテームを砂糖だとは認めていない。
ブルガリアは天然を使用しているようだ。
台所に放置していたブルガリアの容器を叩いて、アリを追い払う。
「まだ舐め足りないひとは、ゴミ箱の中でどうぞ」
そう思いつつ、容器をゴミ箱に捨てようとすると、
容器の中で、二匹のアリがブルガリアに溺れて死んでいる。
あまりにばかすぎる。
こういうところは、人間の子どもよりも、だいぶ、アリは、ばかだ。
せっかく、床を這っているのを見た時も、
容器に群がってるのを見た時も、放っておいてあげたのに、
勝手に容器の中に入って、ヨーグルトに溺れて死ぬなんて、
「そこまで、面倒見きれねえよ!」
溺死は、どうしようもない。
ヨーグルトにダイブしての溺死なんて、どんな人にも、救えない。
好きなものに溺れて死ぬってどんな気分なのだろう。
そもそも、アリは甘いものが好きなのだろうか。
それとも、本能的に甘いものを運ばざるを得ないだけなのだろうか。
どっちにしても、ヨーグルトに溺れるってどんな気分なのだろう。
ブルガリアに浮かんでいる二匹に尋ねてみる。
「ねえ、好きなものに溺れて死ぬって、どんな気分?」
西日本のアリは、何も答えない。
生きていても死んでいても、何も答えない。
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